爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「母性の科学」アビゲイル・タッカー著

副題にあるように「ママになると脳や性格がすごく変わるわけ」を科学的な研究の成果をフルに使って説明していきます。

 

著者のタッカーさんは有名な科学ライターということで、他にも科学の成果を一般向けに解説した著者を出版していますが、この本では自身が4人の子供の母親(しかも最後の子をこの本の執筆中に妊娠出産)ということで自分の体験や心の動きなども十分に使いながら、判りやすく母性というものを明らかにしていきます。

 

世界中の科学者が母性というものについての研究を進めており、著者もそういった多くの科学者たちに直接話を聞き、それをさらにまとめていきます。(そういった科学者たちもなぜか女性、しかも母親が多いようです)

多くは動物実験などで仮説の検証に当たっているのですが、その説明もコンパクトに焦点をまとめていて、判りやすくなっています。

 

もちろん実験に供することができるのは動物に限られており、人体は直接は実験することはできませんが、そこは女性で出産体験もあるということで、想像力を十分に働かせて実験結果を投影しています。

 

たとえば「母性に目覚める時」の中では、出産後すぐに自分の子を認識できることは多くの動物実験でも立証されているのですが、著者も自分の子供を出産した体験を通してその事実が人間でも同様であることを示します。

こういったところは男性著者では不可能なところでしょう。

 

なお、子宮と胎児をつなぐ胎盤というものが、その細胞は父親由来の遺伝子によるということは知りませんでした。

それは父親の側に立った行動をするため、母体を攻撃してまで胎児に有利な働きをするのだとか。

 

出産する女性の年齢が上がっているというのは日本も含めて先進国では同様の傾向のようです。

高齢出産では異常発生の確率も高くなると言われていますが、母親の知識が増すことや、精神状態が安定すること、さらに「終末投資仮説」すなわち、「もう最後だと思ってこれに賭ける」傾向が強まることで、子供の状態も良くしようという親の意識が生まれることから、子供にとっては有利に働くようです。

「年上の母親は決められた食習慣をよりしっかり守り、きちんと胎児検診を受け続け、母乳育児を始める割合が高く、止める割合は低い」のに対し、

「最も年下の母親、なかでも十代の母親には、自分自身に関する独特の葛藤がある。そうした女性は新たな母親としての自分に移行するのに困難を感じ、精神的問題に苦しむ確率が高く、とりわけ産後うつになりやすい。世界の幼児殺害率でも新生児を最も殺害しやすいのは実の母親で、世界のどこを見ても20歳未満の母親がもっとも自分の子供を殺害する割合が高い」

のだそうです。

これには人間の発達の年代も関わり、脳も成長を続けているのが20歳代半ばまで続きます。

したがって10代ではまだ脳の成長も半ば、不安定さが大きいのでしょう。

 

著者自身の体験(夫が精神的に落ち込んで苦境に立ったり。ただし実際は虫に嚙まれての感染症だったようです)もかなり壮絶ともいえる状態だったようで、その挿話(というか、こっちがメインかも)が多く、その合間に放り込まれたように科学的事実が語られるということで、その事実だけを読みたい人には少し面倒かもしれませんが、読み物としては確実に面白いものでした。