頻発する詐欺事件、ネットのフェイクニュース、政治的・宗教的な扇動など、人は簡単に騙されるように感じます。
しかし認知科学の専門家である著者から見ると、そういうわけではなくやはり人間というものはそう簡単には騙されないようにできているということのようです。
上記の例に対しても様々な説明がされています。
詐欺事件もほとんどの人は騙されませんが、稀な例で詐欺が成功した場合に多額の被害が出てしまい、それが大々的に報道されることで印象が強くなるからということです。
また、ナチスドイツの宣伝、スターリンのソ連の政治的プロパガンダ、毛沢東の中共でもほとんどの人はそういったものが嘘だらけであることは分かっていましたが、信じたふりをしないと命に係わるために皆そうふるまっただけだというのが真実のところのようです。
ヨーロッパでは有名らしい、ナイジェリア詐欺というものがあります。
ナイジェリア出身という富豪が老い先短いため、少額の必要経費を送ってくれれば巨額の贈与をしようと持ち掛けられるのですが、もう多くの人にはその手口は知れ渡っており、「ナイジェリア」と聞くだけでほとんど気が付く状態です。
しかしネットではこのようなメールを何百万通出そうが大して手間はかかりません。
それでもその中から一人でも引っかかれば詐欺で儲けが出ます。
このようなありきたりに見える詐欺の手口でもそれを続けていればたまには被害者も出るということのようです。
多くの人は簡単に騙される、という言説が持ち出される状況というものも特異的な場合があります。
それは、「だから無知な国民の民主主義などは危険だ」と続けられることになり、民主制への攻撃とされる場合です。
そういう論説をするのも貴族制のような制度(現在でもそれに類する制度は多い)の信奉者であり、愚かな人々の権利を制限しようという目論見から行われるようです。
実際には多くの人々は「簡単には騙されない」というのが真実に近いのでしょう。
とはいえ、本書読後でも「本当にそうかいな」という疑問を感じざるを得ません。
やはり「けっこう騙されるのじゃないの」という思いです。
場合によって違うということでしょうか。
なお、本書冒頭には著者自身が寸借詐欺にあった場面も書かれており、決して「絶対に騙されない」ということを言いたいわけではないようです。