オレオレ詐欺という電話を使った詐欺が猛威をふるっていましたが、最近では少々形を変えたものの相変わらず毎日のように被害の報道があり、数百万円という大金を騙し取られたという話が続いています。
この本は、著者の日向野(”ヒガノ”と読みます。この読み方も詐欺に関わってきます)さんが、65歳であった2005年に、実際に架空請求詐欺に引っかかり、あっという間に30万円を騙し取られたという被害にあったのですが、その手口とそれに引っかかる被害者の心理というものを経験し、一般に考えられているように「騙される方も悪い」などといった甘い考えでは、自分もいつかは被害者になり得るということを「恥を忍んで?」書き記したものです。
日向野さんは、5年ほど前に奥様を亡くされ、子供さんも独立しまさに「独居老人」でした。
それでも、経済評論家として著書も何冊か出版し、講演も引き受けるといった、社会的にはかなり認められた境遇と言えるものでした。
しかし、寂しさについネットの出会い系サイトといったところを閲覧したりしていたのが詐欺被害の遠因となります。
仕事の合間の昼休みに、その電話は突然掛かってきました。
なんの心構えもなくその電話に出た著者は「ヒガノトシミツさんですね」という相手の声にぎくりとします。
実は著者の名前の「日向野」というのはかなりの難読名で、普通は「ヒナタノ」とか「ヒュウガノ」と読まれることが多く、最初から正式に「ヒガノ」と呼ばれるのはかなり事情を知った人だけという思い込みがありました。
しかも、フルネームで「ヒガノトシハル」と呼ばれたことで、かなり心理的に緊張が高まりました。
そして、相手は「有料サイトの使用料が未納であり、その請求である」と続けます。
何も使っていなければすぐに詐欺と気づいたのでしょうが、少しだけでも身に覚えのあったので、つい引き込まれてしまいます。
日向野さんも知識としてはこういった詐欺の事件は十分に分かっていたはずなのですが、そういう心理に追い込まれてしまえば判断力は低下してしまいました。
ただただ、「怖い」という心理状態になってしまい、「なんとか早く解決したい」ということだけを思うようになります。
そこで、相手が「示談」と持ちかけ少し最初の吹っかけよりは安い値段を提示すると、早く楽になりたいという思いからそれで手を打たなければという方向に向かったそうです。
どのような人間にも弱点はあります。
日向野さんの場合は、ちょっと知られた評論家でもあり、出会いサイトなどを利用したということを公開されただけでも痛手になるという思いが正常な判断力を失わせました。
他の多くの詐欺被害者でも、同様に何らかの弱みにつけこまれてしまうようです。
「自分だけは大丈夫」という思いを誰もが持っていますが、詐欺被害者は若年層にも出ています。
気をつけたいものです。