爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「海洋プラスチックごみ問題の真実」磯辺篤彦著

最近はナノプラスチックが海水中にも増加しているといった話が聞かれます。

しかしその研究はまだ確実なものではないようです。

これまでのところ正確な結果が出せる研究というものは、1㎜程度より大きいプラスチック片、マイクロプラスチックのもので、その日本でのトップクラスの研究者が本書著者の磯辺さんだということです。

 

本書ではマイクロプラスチック汚染の現状、その何が問題なのか、海洋中でのマイクロプラスチック漂流の状況推定、そして私たちがしなければならないことが説明されています。

きわめて分かりやすい記述となっていますが、その内容については査読論文で認められたものに限るという厳しい自己規制で書かれており、現時点では非常に正確なものと言えます。

 

海洋上でのサンプル採取法なども具体的に記述されており、とても自分ではできないなということを認識させられるようなとなっています。

 

海洋ゴミ問題などと言いますが、現状ではそのほとんどがプラスチックであり、個数比で7割以上だということです。

他のゴミは分解していきますがプラスチックは非常に分解が遅くいつまでも無くなりません。

そしてそれが増え続けているのが現状です。

 

プラスチック自体には毒性はありません。

(ただし微細プラスチックが体内に入り込むことによる影響は別とします)

しかしプラスチックが汚染物質を吸着したり、様々な添加物を含むことが問題です。

プラスチックは油性成分を吸着しやすい性質があるため、海水中にわずかに存在する油性物質を徐々に吸着して濃縮することがあります。

中にはPCBなどの有害物質もあり、それが濃縮される危険性があります。

それが体内に取り込まれることによる被害も考えられるところです。

 

マイクロプラスチックの調査方法はある程度確立されています。

海面近くから曳網採取という方法ですくい取ります。

これは動物プランクトン採取の方法を応用したものです。

ニューストン・ネットなどと呼ばれる網を船で横向きに引っ張りすべてを船上に上げて網に付着するすべてを海水で洗い出しで海水ごと容器に詰めます。

そこからプラスチックだけを取り出す技術は現在まだ確立されていません。

そこで、ピンセットを使って手作業で取り出します。

小さい粒は肉眼ではプラスチックか動植物の破片か分かりませんので、フーリエ変換赤外分光光度計を用いて素材判定を行います。

なお、船で曳くため海面から深さ1メートル程度の範囲に浮いているものしか採取できません。

それ以外の深さのものは技術的に現在のところ採取できていません。

また網の目の関係で0.3㎜以下のものは捕集できません。

より分解が進めばもっと小さい破片となっていくことは予測できますが、より細かい目の網を使うとしてもその後の作業が困難となります。

より小さい大きさのプラスチック片を研究対象とすることはありますが、効率的に捕集し調査することはまだできません。

 

マイクロプラスチックが魚類や鳥類に捕食され体内濃縮されて食物連鎖で有害になるかどうかという問題もあります。

ただし、そのためには小さな動物で食べられたプラスチックがフンとして体外に排出される前に大きな動物に食べられてしまうということが起こらなければなりません。

水銀の場合は排出されなかったために生物濃縮されましたが、プラスチックは速やかに排出されるようです。

そのためわずかな濃度のプラスチックは食物連鎖で取り込まれることはあってもさほど高濃度にはならないようです。

ただし、プラスチックそのものではなく付着する化学物質がある場合はそうではありません。

PCBやDDEといった有害化学物質が生体内に蓄積しやすいという研究もあり、それが生物濃縮される危険性はあります。

ただしそれらの研究は今のところ自然界では考えられないような高濃度でされており、どこまで自然に起きるかは分かっていません。

 

現状で流通するプラスチックの99%は回収され焼却やリサイクルとして使われています。

しかし日本ではその1%でも年14万トンに当たります。

それがおそらく投棄されやがて川から海へと流れだし、そこで分解されてマイクロプラスチックとなっていきます。

世界でも日本を含む東アジアはプラスチックの廃棄量が最も多い地域です。

それが海などの環境中で徐々に分解され微細化していきます。

その影響は大きいものです。

 

ただし、「予防原則」としてプラスチックの使用は止めようというのも危険です。

現在の生活はプラスチックを用いることで衛生的な食生活を送ることができるようになっています。

これを止めればすぐにでも危険な状況になるでしょう。

 

なお、「生分解性プラスチック」というものが研究されていますが、まだ全く実用的なものではないそうです。

これまでの生分解性プラスチックは、分解する条件が限られており自然環境ではなかなか分解しないものです。

堆肥のような高温多湿条件で分解は進むものの、海水中などで分解することなど想定していないものです。

さらに徐々に分解するとしても、それはマイクロプラスチック化するということです。

それがさらに分解したとしてもかなりの時間はその状態で浮遊します。

しかも生分解性プラスチックとなることで「モラルの低下」が起きる危険性があります。

分解するからいいやとばかりに投棄する人間が増えるかもしれません。

どうやらこの方向での解決は難しそうです。