爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ほんとうの多様性について話をしよう」サンドラ・ヘフェリン著

人間社会での多様性といえば、国や人種、性的指向など様々なバックグラウンドを持つ人々を受け入れるということですが、日本はそれにまともに取り組もうという意識が弱いようです。

 

本書著者のサンドラ・ヘフェリンさんは日本人の母親とドイツ人の父親を持ち、ドイツ・日本の両方で暮らした経験を持ちます。

外見は父親似であるため、日本ではほとんど日本人として扱われることがありません。

ただしドイツでも言わなければ日本にルーツの片方を持つということは周りも気づかなかったのですが、それを言ってしまうと特別扱いといったことはあったようです。

 

見た目で外人扱いということは日本ではまだまだ根強いようで、白人・黒人はたとえ日本国籍を持ち日本語が上手であっても外人扱い、しかしアジア系の人々は外人とは言われないといったことが多いのですが、特にヘフェリンさんはそれで違和感を感じることが多かったようです。

親しくなってハーフ(この言葉も問題ですが)であることが分かっても「それであなたはどっちの国の味方なの」と問われることが多く、どちらかに決めなければならないかのような意識をなぜ持つのか、困るところです。

 

今は国籍も2つ、3つ持つという人も珍しくありません。

欧米ではそれも普通なのですが、日本では国の方針で20歳までにどれか1つに決めるように強制されます。

ただし、日本政府に「国籍選択届」を提出するのですが、そこで日本国籍を選んだ場合、自動的にもう一方の国籍から離脱したことにはならないそうです。

日本政府は「国籍離脱の努力をしてください」とするのみで、実際に離脱するかどうかは本人次第ということです。

EU諸国の場合は大使館に尋ねても国籍離脱の必要はないと言われるだけで、特に日本で政治家になろうといった場合以外は複数戸籍を持つことに問題はないそうです。

しかしこういった複数戸籍については、日本人の多くは「ズルい」と感じるそうでそれがなぜかということも違和感の原因です。

 

ドイツではかつて労働力が不足する事態となり、トルコなどから多数の労働者が移民としてやってきました。

そのため、現在でも多くの移民やその子孫たちがドイツ人として暮らしています。

また難民の受け入れも多いためそういった人々も多数います。

彼らもドイツに定住することはできますが、その場合ドイツ語を話すこと、ドイツ社会に融合することが求められます。

そのために無料のドイツ語学習コースやドイツ社会や文化について学ぶ統合コースが用意されています。

ドイツは基本的には彼らの文化は尊重すべきとしていますが、しかしドイツ社会の基本姿勢と合わないものは受け入れません。

女性蔑視の国から来てもドイツではそれは認められないということを示します。

名誉殺人(イスラム教徒の一部で家族の名誉を汚した娘を殺害すること)や女児割礼といった慣習があるところから来た人々に対してはドイツではそれは犯罪であり認めることは無いと教え込みます。

日本はその点まだ異なる慣習で生活する外国出身者がさほど多くないためか、彼らの慣習も認めるべきだという理想論を持つ人が多いようです。

しかし日本社会として認められないことは多くあるようで、それは明確にすべきだということです。

 

ヨーロッパでは人種差別が少ないのかというと、そんなことはなくかなり多い事例があります。

その中で、特にコロナ禍が中国発ということもあって中国人差別が頻発しています。

そのような中で日本人が「やーい、中国人」と言われることがあるのですが、その場合たいていの日本人は「私は中国人ではなく日本人だ」と言うようです。

これは問題のポイントを間違えています。

アジア人を蔑視している相手が悪いのであって、自分が中国人ではないなどということではありません。

 

本書の最後では人種にとどまらず性的指向や障がいの有無などについても触れています。

そこで書かれていたのが、「今はマジョリティに属していても、いつマイノリティになるかわからない」ということです。

自分はマジョリティ側だと思い、マイノリティを差別していても、いつ事故にあって怪我をして障がい者になるか、失職して貧困に苦しむか、子どもや孫がLGBTQになるか、まったくわかりません。

その時になって多様性が大事だと気付いても遅いのかもしれません。