爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「これが九州方言の底力!」九州方言研究会編

福岡や鹿児島出身の芸能人などが方言をネタにすることもあり、九州方言というものはテレビなどでも聞くことがありますが、その独特の語彙は古語の名残が残っているとか、アクセントも独特といったことが言われます。

 

この本ではそういった九州各地の方言を紹介しますが、その著者たちは九州方言研究会に所属する大学の教授などで、内容はかなり学究的なものとなっています。

 

冒頭の言葉こそ「とっとっと」とか「食べきらん・食べられん・食べれん」などと目を引くものを取り上げていますが、その中味の解析はあくまでも言語学的なものとなっており、それらの言葉の成り立ちまで分かるようになっています。

 

私も気づいてみれば九州方言の真っただ中に暮らすようになっており、日々それらに接し続けていますが、何十年経ってもまだよく分からないことがあります。

(特に家内の母親の話すことはまだ2-3割ほど分からない部分があります)

 

ただしそれほど厚くない本でしかも九州方言といっても大差のある各地の言葉を取り上げていますので、「熊本」と限ってみればまだまだ食い足りないようにも感じますが、そこはまた別の専門書を求めるべきなのでしょう。

 

熊本の方言で「おろ」というものがあります。

熊本のある病院で医師が新しい薬を処方し、数日後に再来院した患者に問いました。

「新しか薬はどぎゃんだったですか?」

「はーい、おろ痛うなりました。」

これがどういう意味か。

「おろ」は平安時代にから使われている言葉で、昔も今も「少し、わずか、不十分に」という意味を表します。

つまり「おろ痛うなりました」は「あまり痛くないようになりました。」という意味だそうです。

知らなかった。

 

九州に限らず西日本に広く使われることばに「かってきて」があります。

「お醤油を切らしたからお隣に行ってかってきて」という風に使われます。

これはもちろん、「買ってきて」ではなく、「借ってきて」です。

現在の言葉の「借りる」は古語では「借る」でした。

これが音便となると「かりて、かりたり」が「かって、かったり」となります。

ところが困ったことにすでに「買う」という動詞を「かって、かったり」と使っていたために衝突してしまい、もともとの動詞を「借る」から「借りる」に変えてしまいました。

これが東日本で起きたことです。

しかし西日本から九州ではそうはなりませんでした。

「買う」の音便形は「こうて、こうたり」とウ音便化するために「借る」の「かって、かったり」の促音便とはぶつからなかったのだそうです。

 

強調語というものがあります。

九州方言はこれが各地独特でしかも数が多いという特徴があります。

「ばり」「ばりばり」は九州共通。

「がばい」は佐賀、「いじ」「がっぱし」は長崎、「しらしんけん」は大分、「てげ」は宮崎、「わっぜ」は鹿児島といった具合ですが、その中で特に数も多く形も独特なのが熊本だそうです。

「たいぎゃ」「かんなし」「まうご」「はうごつ」「だご」「そーん」「ごろ」「どん」等々です。

ただし県内でも地域差があり、熊本市ではこれらの多くを使いますが、県南八代では「ごろ」、人吉では「がら」、天草では「どん」が特徴的だそうです。

 

アクセントも熊本では無アクセントが特徴的と思っていましたが、北東九州、南西九州と宮崎・熊本・佐賀と別れていて、中央部の無アクセントは茨城・福島とも共通、南西部の鹿児島長崎等は沖縄とも通じるアクセントだそうです。

こういったアクセントの共通性はその他の語彙や文法とは関係がなく、それらが大きく違っていてもアクセントだけは共通という例が見られるそうです。

 

なかなか深い話が聞けました。