日本語はその使われている地域の独立性が強いためか方言が各地で発展し独特のものとなっていました。
しかし不幸にも国の統一性を重視する時代がやってきたため、方言も圧殺されるような扱いをうけることもありました。
最近では地方重視という動きもあり、方言を見直すこともあります。
この本では方言を研究する方言学というものの概説を紹介し、現状の各地の方言を解説することで、はしがきに編著者の大阪大学名誉教授真田さんが書かれているように「このテキストでの学習を通して方言の研究に意義を見出す若い人たちが育ってくれることを心から願う」ということで、言語学を学ぶ学生のための教科書として作られたもののようです。
それを、もはや人生も終わりかけた爺さんが読んでもよいものかどうか、まあ面白かったですが。
第2章「各地の方言の実態」の項は、各地で方言研究をしている研究者が地方ごとに執筆しているようです。
おそらくその人々が大学では教育に当たっており、その学生たちにこの本を教科書として使わせているのでしょう。
それはともかく、各地域の「伝統方言の要説」「方言の動向」「方言活動」といった項目を統一し、全国で方言というものがどのような状況であるのか見ることができます。
この中で面白いのは、各地方での「ネオ方言」つまり若い人たちが話している言葉の実例を挙げているもので、おそらく学生年代の人たちが普通の会話をどのような形態で行なっているかということを取材しまとめてあります。
こういった若者たちの「ネオ方言」というものは、実は現在の高齢者たちの使う元からの方言とはかなり異なります。
方言撲滅運動とも言うべきかつての統一言語化の動きの中でいったん方言というものが壊滅しかけた地方が多く、元からの方言とはかなり違った形のものが再び広がっているという状況があるようで、それをきちんと解析して記録しておくことは必要な事なのでしょう。
最後の章で方言研究の方法についても解説されていますが、方言の実例の採取というのはかなり難しい側面が含まれているようです。
対象者に研究の趣旨を説明し、さあしゃべってくださいと促してもなかなか自然な言葉は出てきません。
もう一つの方法は隠し取りのマイクをセットし自由にしゃべっている場面を記録するというものですが、これでは期待するような言葉や文法がいつになったら出て来るかも分からず、延々と関係のない話ばかりが続くということがあるそうです。
アクセントは東京と大阪でまったく違うということは誰でも意識しているでしょうが、実は関東地方を詳しく見ても必ずしも東京式アクセントだけではないことが分かります。
東京式アクセントと言われるものは南関東と群馬などで使われているのですが、「埼玉特殊アクセント」というものがあり、一見して京阪式アクセントのように見えるものの、東京式から変化してできたものだそうです。
また茨城、栃木では無型アクセントであり、本州では東北地方南奥方言と北関東方言に見られるそうですが、「雨」と「飴」、「柿」と「牡蠣」などをアクセントの違いで判別するということがなく、聞いただけではどちらか分からないとか。
これは熊本と一緒のようです。
九州では宮崎県日向地域、熊本県中南部から北部、福岡県南部、佐賀県、長崎県北部が同様です。
九州の北中部は肥筑方言といって語彙などは一つのグループを形成しているのですが、アクセントでは福岡市方面とは大きく違っています。
それがなぜ同一となったのか、不思議な気がします。
なお、熊本のネオ方言として「とても、非常に」の意味で使われるのが「タイギャ、タイナ、マーゴツ」だそうです。これはネオだったのか。
「方言の今」を研究している人もいるということが分かります。
私ももし学生であったならやってみたい分野ではあります。
50年以上遅かったけれど。