言語学という分野では、各種の言語を主に「書いて」研究していきますが、どうやら「会話」というのはまた別の科学が隠れているようです。
会話の途中で必ず入るのが「え?」といったものです。
英語で言えば「Huh」や「Uh」
こういった言葉は辞書には載っていません。
しかし著者らはこれは会話において非常に重要な要素であると考え、他の言語の例も詳しく調査していきます。
ヨーロッパ系だけでなくアジアやアフリカ、アメリカ原住民の言葉まで、その言語の話者を研究者の一員に加えて細かく調べていきました。
すると驚いたことにこういった間投詞とでも言うものはどの言語の会話でも必ず現れるそうです。
しかもその形も「Huh」と非常に似通っている。
どこでも「あ」とか「え」といった母音に「H」系の子音が絡むような形であったそうです。
そしてそれが投ぜられるタイミングというものも言語の差があっても似通ってくるのだとか。
そこに「会話の科学」があるということです。
会話にはルールというものがあり、これは言語の違いがあっても人類共通のものとして存在しています。
それは、基本的に二者間の会話の場合に質問の意図が聞こえない場合の発声は必ず行うこと、話の切れたところで話す方が代わる(話者交代)の原則があること。
その「話が切れる」ことを示すための話の止まるタイミングも各言語で多少の違いはあってもほぼ同じになります。
これまでの言語学はこういった「会話の科学」から目を背けてきました。
会話での人間の発揮する能力を調べることで新たな言語研究が展開するということです。
話者交代のタイミングをはかるには色々な信号を察知する必要があります。
話す内容もありますが、それ以上に話す時の抑揚、調子、強勢、音の長さやリズムも関わってきます。
イギリスの元首相、マーガレット・サッチャーが在任中、ジャーナリストとインタビューしていてよくサッチャーが話し終わる前に記者が質問を始めるということがありました。
他の首相の時代には少なかったこの事態はなぜ起きたのか。
こういった原因を詳しく調べた人がいます。
サッチャーは実際にはまだ終わらない話をしている途中に明らかに声の高さが急激に下がる箇所が見られたそうです。
他にも理由があったかもしれませんが、このサッチャーのクセが記者のフライングの原因となったようです。
会話というものはいつも整然と用意されそのまま話されるものではありません。
話し始めて途中で方向転換とかいった事態はよくあることです。
こういった会話の不完全さというものを、ノーム・チョムスキーをはじめとするこれまでの言語学者は言語の本質とは関係なく無視しても良いとしていました。
しかしこういった会話の不完全さはそれ自体が言語の本質部分だと考えられます。
この裏に隠される心理というものが会話の重要要素となっています。
会話は最低二人が必要ですが、それぞれが相手の意図を深く考えて進めていきます。
それが人間と他の動物とを分ける重要な点だということです。