爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか」樋口晴彦著

多くの企業が凝りもせずに「不祥事」を繰り返しています。

「再発防止」などということが言われますが、同じ場所で繰り返されることも多く、またそれを教訓に他社が襟を正したなどと言うことはまず無いようです。

本書著者は警察庁入省後、様々な危機管理や企業不祥事などを検討してきたそうで、そういった不祥事の中から13の事件を取り上げそのメカニズムに迫ってみようというものです。

 

「生かせなかった教訓」と題した章では、アクリフーズの農薬混入事件やNHK職員のインサイダー取引事件など。

「従業員が不正を犯すとき」では、メルシャン水産飼料事業部の循環取引事件、ベネッセの顧客情報漏洩事件など。

「ガバナンスの機能不全」では、新銀行東京の巨額損失事件、大王製紙会長の特別背任事件、

そして最終章の「重大事故が起きる現場」では中日本高速道路の笹子トンネル事故、東京ドーム遊戯施設「舞姫」の死亡事故などが扱われています。

どれも印象深い事件であり、当時のニュースでは大きく扱われていました。

しかしその割には「生かせなかった教訓」通りにいまだに同じような事件事故が多発しているようです。

 

企業が保有する顧客の個人情報などが漏洩されるという事件は数多く繰り返されています。

こういった事件の傾向を分析した研究があったそうです。

「個人的・人格的特質」男性、大卒、転職経験者、相対的に高いIT技術、多額の遊興費を要する趣味嗜好、多額の住宅ローンや借金

「環境要因」システム管理者はHP管理の担当者、他者による業務チェックを受けないまたは他に詳しい者がいない、特に職場への不満はない。

「犯行状況」、生活費を捻出するため、顧客情報を狙う、犯行後もそのまま勤務

という状況が目立つようです。

そう言われてみればそんな状況にある人が今現在でも多数居るようです。

 

東海ゴム工業は自動車用の防振ゴムやホースの供給者としてトヨタなど多くの自動車会社に部品を出荷していました。

しかし工場に1台しかなかったスチーム・アキュムレーターという装置に不具合が発生したのですが、それを修理するには長い期間がかかるため、部品供給先に迷惑がかかるとして修理をせずに操業してしまい、労働安全衛生法違反を問われたというものです。

こういった工場でもボイラー関係の担当者は限られた人数であり、その担当者も長年その現場に居て異動も少ないという事情があり、同調心理が働き違法行為も見逃したということです。

また監督署側でも「やむを得ない場合は緊急届け出もよく、修理も操業しながらでも可能」であるという事実を積極的に周知していなかったという姿勢があったということで、行政の責任もありそうです。

 

笹子トンネルの天井板の崩落事故といのは多くの犠牲者を出したということでも衝撃的であり、また首都圏の人は誰でも通った経験があるような場所ということもあって印象深いものでした。

道路などのインフラの老朽化による事故というものは今後も多発する危険性が大きく、この事例なども十分に検討されるべきなのですが、おそらくやっていないでしょう。

トンネルの換気の方法としては天井板を設けて仕切り板をつけ、両方向へ空気を送る横流方式というものと、天井板は設けずにトンネル入り口に大きな送風機を設置する縦流方式というものがあるそうです。

以前は送風機の性能に限りがあるために横流方式が多かったのですが、それが向上してからは縦流方式が主流となり横から縦への改修ということも行なわれています。

しかし笹子トンネルは改修をするにも交通量が多過ぎて止めることもできなかったようです。

またその規模が大きすぎて天井板を吊るすアンカーのボルトの検査も、小さいところでは梯子を使えばできるところがここでは足場を設置しなければできないということで、ボルトをハンマーでたたいてその打音を聞く打音検査というものが長い間できないままでした。

それもこれもすべて検査補修の予算が不足していたことが関係します。

インフラ老朽化といわれながらこの予算が削減され続けているようです。

これでは今後もこういった重大事故が続くことでしょう。

 

事件や事故があっても、金を払えばよいだろうという安易な考え方もあるようです。

それでは済まない場合もあるということは、福島原発事故を見れば分かりそうなものなんですが。