爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「空と宇宙の食事の歴史物語」リチャード・フォス著

本書は「旅の食事シリーズ」の1冊であり、「船の食事」「鉄道の食事」は読みましたが、その最後に「空と宇宙」をまとめたものを読みました。

 

空の旅としては先駆的に気球で飛んだということはあるものの、定期的に旅客を乗せて運行したとなると20世紀初頭からの飛行船がその始まりと言えるでしょう。

ツェッペリン型の飛行船が商業飛行を始めました。

しかしヒンデンブルク号の爆発でその飛行は終わり、その後は飛行艇の時代となります。

さらに第二次大戦後にはジェット機の時代、さらにジャンボ登場で飛行機の旅行の大衆化、そして規制緩和で競争激化になりコストカットの時代となっていきます。

機内食を見ると、飛行船から飛行艇の時代には機上での調理が困難という制約はあったものの、乗客は高額な料金が払える富裕層に限られていたため、できる範囲内ではあるものの料理も高級なものが志向されました。

これはジェット機化の初期にもそうでしたが、航空での旅行が一般化し、エコノミークラスの旅客数が増えるに従い安価で簡便な料理も増加します。

それがさらに航空会社の競争激化となり、ファーストクラスの料理の高級化とその他の料理の簡素化が極端になっていきます。

これは現在でも続いている状況であり、乗客のごく一部のみが食べる最高級の料理はさらに贅沢となるものの、一般の客が食べるものはそうではないということになっています。

 

初期の飛行においては、機上での加熱というのが大問題でした。

裸火の使用は不可能であり、電力もわずかしかなかったので、機内は暖房すらされておらず、まして調理のために電熱を使うということも不可能でした。

初期の飛行船では生石灰の発熱を利用するという加熱器もありましたが、暖かい料理を供するというほどではなかったようです。

飛行艇となってもその航続距離は短いものであったので、給油のためにいったん降りる経由地を設け、その間に旅客に食事をさせるということもありました。

それが徐々に空港の周囲に料理を作って飛行機に載せるという設備を作るようになりますが、食品の冷凍技術とそれを解凍する技術、電気オーブンや電子レンジの機能改善に伴い、料理の質の向上が果たされ、高級化も可能となっていきます。

 

ただし、ジャンボジェットの登場に始まる飛行機の乗客増加は乗員の負担増加にもつながり、ワンプレートにのせられ冷凍されたものをまとめて電子レンジで温めて客に出すというだけでも搭乗時間のほとんどを費やすということにもなっていきます。

 

高高度を飛ぶ飛行機の中では与圧してあると言っても大気圧よりは低い気圧であると共に、その湿度が極めて低いという状況になります。

その中では味覚が相当変化することになり、地上で供する料理と同じ味付けでは美味しく感じられません。

人間の舌にある味蕾の機能は飛行機の中では30%程度低下すると言われています。

そのため、味付けの調整や飛行機向けの食材、またうま味はあまり影響されないのでそれに頼った料理といった具合に機内食向けのレシピ開発も研究されたそうです。

 

ジャンボ化の時代に続き、超音速旅客機のコンコルドが登場しました。

その機体は非常にスリムなものであったのですが、そのために機内食の調理などに使われるギャレーという場所も狭いものでした。

それでもコンコルドの運賃は非常に高いものであったため、乗客は機内食もそれに見合ったものを期待しており、さらにそのサービスもスムーズであることが必須でした。

しかもスピードが速いので搭乗の時間も短い。

そのため、乗員たちの苦労も大きなものだったようです。

 

この本では飛行機の食事に加えて「宇宙の食事」すなわち宇宙食についても書かれています。

かつては宇宙船での食事と言えばチューブから押し出して食べるというイメージでした。

今ではかなり違ってきたようですが、基本的には宇宙船内では調理はできないものであり、調理済みのものを加熱する程度のようです。

それでも国により様々で、ロシアはソ連時代から宇宙食の質が高いことで知られていたとか。

中国も中華料理を取り入れていますが、もちろん油で揚げるということは不可能なので再加熱するしかないようです。