ネット通販で物を買うのが普通になり、ちょっとした日用品まで通販で買うこともありますが、それを運んでくれる運送業者の労働環境がひどいことになっているということはよく言われています。
2016年には宅配最大手のヤマト運輸で残業代未払の問題が表面化し、会社はそれを支払うために多額の出費をしましたが、それでも問題は解決とは行かないようです。
運送業の労働状況は悪化の一途をたどり、長時間労働は他の産業をはるかに上回りしかも給料は低水準ということが知れ渡り、就業者は減り続けて人手不足が深刻化し、そのためにさらに長時間労働が必要となるという悪循環になっています。
このような状況について、現在立教大学経済学部教授という首藤さんが2018年に書いたものがこの本ですが、首藤さんは労使関係論が御専門ということなので、物流問題といっても労働の面から見た議論となります。
物流の労働問題といっても、ヤマト運輸のような宅配業者の個別配送と、主に中小業者の多い路線トラックによる長距離輸送がありますが、後者の方がさらに深刻な状況となっているようです。
トラックの輸送運賃は原価を積み上げて計算して決まるのではなく、まず最初に他の業者との関係で運賃を決めてそこから費用を削減して収めるという状況です。
燃料代は減らしようがないので、結局はドライバーの取り分を減らすしかなくなります。
それでも安値競争が止まらないのは運送業者の数が多すぎるためです。
これは1980年代に盛んに導入された規制緩和によるもので、1990年に施行された物流二法と呼ばれる二つの法律により新規業者の参入が大幅に増加したためです。
これにより市場原理で運賃が安くなると言われましたが、その通り安くなったもののそれは労働者の給与を極限まで減らすことによるものでした。
運送業者の仕事というものは荷物を発送者から受領者まで運ぶというのが本来の範囲であり、それに対するのが運送の運賃なのですが、その前後の車への積み込み、積み下ろしという業務までを運送業者にやらせることが一般化しています。
これは本来は別の料金を取らなければならないのですが、契約の力関係により運送業者にやらせるということになります。
そのために運転者の労働時間はさらに長時間化しています。
運送業での労働者の賃金は歩合制の変動給となっている例が非常に多くなっています。
大型トラックの運転手の場合で2012年では変動給の割合が53%と高くなっています。
そもそも、トラックドライバーの仕事というものはドライバー自身の裁量でコントロールできる範囲はそれほど大きいものではありません。
それでできるだけ給与を上げるためにドライバーは無理をして長時間労働をするということにもなっています。
このような悪循環ですが、さすがに運送業者の撤退、廃業もあり徐々に過当競争が減りつつあるようです。
その結果、運送業者側の要求が徐々に通るようになるのかもしれませんが、まだまだ荷主との力関係は変わるというところまでは行かないようです。
またそこに行政が介入しようとしてもなかなかできることではありません。
それでも労働環境を少しでも上げなければ物流自体が滞りかねないということは避けられないことなのでしょう。