爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「集合知とは何か ネット時代の『知』のゆくえ」西垣通著

集合知とは、特にネットなどを通して集積した多数の人々による考えのまとまりを表わし、従来のような専門家による専門知と対比されます。

これがクローズアップされたのが東日本大震災による福島原発事故の時のことで、専門家と言われる連中がメディアで繰り返した「大丈夫」という専門知がほとんど嘘ばかりで、かえってネット上で流された「危険」というメッセージの方が正解だったということが後から分かってきました。

そのような集合知の方が信頼できるのではないかという思いも育ってきました。

 

このような集合知というものについて、詳しく解説をしている著者は情報学が専門ということですが、一度はメーカーでコンピュータソフトの開発研究にあたった後に大学に戻り研究を続けたという方です。

その文章はIT関係の専門性から哲学的な方向にまで自由自在に飛び回るというもので、少々難解なものとなっています。

 

権威を持った専門家の専門知を世間がありがたがるという時代はすでに終わりかけています。

その要因としては、学問分野への市場原理の導入もさることながら、あまりにも過度に専門分化が進んだため研究者の視野が怖ろしく狭まったということがあります。

ならば集合知の方がマシなのか。

高等教育が普及しある程度の判断力を備えた人々がネットを使って結集することで得られると言われる集合知ですが、それでもその過度な評価は有害です。

集合知が優れている分野とそうではないものとは明確に分かれます。

世論が二分されるような問題については、集合知などは何の力も持てません。

ネットの集合知は魔法の杖だと言わんばかりの論者もいますが、それでできることもあり、できないことも多数あるということでしょう。