爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ハーブの歴史」ゲイリー・アレン著

ハーブといえばハーブティーや料理に加えて香りを楽しむものといったイメージですが、その定義というものは意外に明確では無いようです。

人によってその言葉の使い方が異なるのですが、本書ではそれらを紹介したあとに著者のまとめてして次のように述べられています。

「簡単に言うと、ハーブは料理の風味を増すために利用される植物の部位のうち、スパイスを除いたすべてである」

ただし、その文章には続きがあり「スパイスという言葉の定義がそもそもはっきりしないのだが」とされていて、結局はハーブの定義もあいまいのままのようです。

 

しかし、大方の人の意見ではスパイスと言うものはヨーロッパでは海外(特にアジアなど)から乾燥して運ばれる「高価な」植物の種子を指しており、それ以外のものがハーブだろうということです。

ただし、典型的なスパイスとして扱われるものでもその原産地のアジアなどでは種子だけでなくその植物の葉なども食べられる場合が多く、あくまでも便宜的なものです。

またクローブは誰もがスパイスとして考えますが、これはその植物の花のつぼみなのでこれもちょっとはみ出しています。

 

ハーブの歴史を見ると言っても、なかなか文献に残りにくいものであり、いつ頃から使われたかということ、また記録があってもそれが現在の植物のどれと一致するかも難しいものです。

メソポタミア文明楔形文字の記録に残されているもので現在の植物との関係が推定されたものによれば、ルッコラ、ディル、コリアンダーなどといった現在でもおなじみのハーブ類と、「サフル―」「ズルム」というまだ特定されていないハーブなどの記録があります。

ギリシアのミケーネ文明の粘土板には、セロリ、コリアンダーフェンネル、ミントと見られる名称が記されていますが、ただしこれらが食材だったのか、薬だったのか、香料だったのか、その使用法については特定できていません。

 

ヨーロッパでおなじみだったこういったハーブの記述のあとに、本書では「ヨーロッパ以外のハーブ」というコーナーが設けてあります。

実はこういった地域のハーブがその後ヨーロッパに紹介され今では広く使われているものもありますが、ここで記されているのはあくまでも現在もその地域固有のものと扱われているもののようです。

アジア地域のものではシソ、シュンギク、アマメシバなど、そして日本独特のものとしてミツバも挙げられています。

また、海藻類もハーブとして紹介されているのは日本人としては意外かもしれません。

海苔や昆布、ワカメが取り上げられていますが、これらを食用とするのは世界でも珍しいということです。

また、中国はアジア地域では特異的にハーブ類を使わない地域だそうで、中国料理にもほとんど使われておらず、それ以外の日本、ベトナムやタイと言った東南アジアが多くのハーブを取り入れているのとは大きく違っています。

 

ただし、最終章にもあるようにこのようなハーブの地域差というのはどんどんと縮小されています。

人の移動が盛んになると行った先で慣れ親しんだハーブ料理を作るようになり、それがそこに住んでいる他の人々の口にも入るようになります。

移民の多いアメリカでは各国料理が受け入れられていますが、それに伴い使われるハーブ類も知られるようになります。

これはアメリカ以外でも多く起きており、そもそも「イタリア料理のトマト(新大陸原産)」「タイ料理のバジル(ヨーロッパ原産)」「インド料理のトウガラシ(新大陸原産)」など、現在の各国料理の典型とも言えるものが外国由来ということも数多く見られます。

 

コリアンダーも最初それに触れたヨーロッパ人は「石鹸臭い」などと言っていたようですが、そのうちに慣れてしまい「これが無いと」などと言うようになります。

ハーブ類の国境もなくなりどんどんと海外のハーブを取り入れていくようになるのでしょう。