爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ジェンダーと脳」ダフナ・ジョエル、ルバ・ヴィハンスキ著

人間は生まれた時に生殖器の形状により、ごくわずかな非定型の人を除けば男性と女性に分けられます。

そしてそれに従って「男・女」として育てられて行きます。

その違いは生殖器だけでなく脳の中にも存在するという説が古くからあり、「男性脳・女性脳」などと呼ばれていますがその実態は中々証明できないものでした。

 

著者の一人、神経科学者のダフナ・ジョエルは2015年に「モザイク脳」という仮説を発表し、それは大きな波風を立てました。

 

男性脳、女性脳の違いというものを示すために、脳内構造や心理学的反応などいろいろな構成成分を選び解析する努力は長年続けられてきました。

ある行動や性格の特徴で男性的・女性的とされるものを設定し、どちらを選ぶかということを多くのこういったデータセットで実施していくというものです。

たとえば、「ボクシングが好きか・嫌いか」「電話での会話が好きか・嫌いか」「化粧品を使用するか・しないか」などなど。

これを多数行えば男性的・女性的という特徴が分けられるだろうという仮説です。

しかし、こういった調査をいくらやっても「際立って男らしい」「際立って女らしい」被験者はほとんど見つからず、たいていの人はその答えが「男性側・女性側」が入り組んだものとなります。

それを著者らはピンクとブルーのタイルを使って図示しました。

それがまさに「モザイク」そのものなのです。

男性と女性とを別々にまとめてみると、確かに男性のものは全体が青っぽく、女性のものはピンクっぽいのですが、それでも一つ一つの要素を見るとどの個人をとっても複雑に青とピンクが入り組んでいます。

これはこのような簡単な心理テストばかりでなく、他の脳神経学的なデータでも同様です。

やはり男性的・女性的特徴とされる性質はそればかりで構成される個人はほとんど無く、皆両方の性質を混合して持っているのです。

 

かつての原始的な脳神経学では胎児の時に男性ではテストステロン(男性ホルモン)をどんどんと分泌してそれが脳細胞に影響し男性脳となるなどといった仮説が立てられました。

しかしどうやらそのようなことが起こっていることはなく、男性も女性もその性差よりもはるかに個人差の方が大きいというだけのことのようです。

 

それならば現実の人間に存在する男女差というものは何なのか。

それこそがジェンダーというものの影響です。

周囲の人々は赤ちゃんを前にしてその子が男か女かで無意識に行動を変えてしまいます。

保育のプロの保育士の人の赤ちゃんへの対し方を映像で記録し、男女の子に対して異なる方法で接していることを指摘すると当人が驚きます。

まったく意識しないままに赤ちゃんが男か女かで抱き方も違うそうです。

まだ意識も不確かな乳児の頃から周囲の人間、親や親戚その他がその子に「男だから・女だから」と接し方を変えることにより、その子もしだいにジェンダーに染まっていくということです。

 

日本では男女の格差が大きいと言われていますが、この本を読むと欧米でもやはりまだ相当な壁が残っているようです。

それを取り去るためには「ジェンダーという神話を取り去る」必要があるとしています。

女性差別などはしていないという人が居ても、もしもその行動を逆転させればと説明すると分かるそうです。

日本はまだまだ、「女性に機会を与える」などということすらできない段階です。

ジェンダーフリーすなわち「男女ということを考えずに個人に機会を与える」ことが一般的になるのはいつのことでしょう。