戦後すぐに出版され大きな話題となった日本人論に、「菊と刀」という本があります。
これは、ルース・ベネディクトというアメリカ人女性が書いたのですが、実はそれに先行して戦時中に書かれた日本人論がありました。
それが、このゴーラーが書いた「日本人の性格構造とプロパガンダ」です。
ジェフリー・ゴーラーはイギリス人の社会学者で、サセックス大学にその資料は保管されています。
彼は一度も日本を訪れたことはなかったのですが、多くの日本滞在経験者と面談しその経験を聞くことで日本人についての意見を持つに至り、このレポートを書いてそれが当時のアメリカやイギリスなどの連合国の対日政策検討担当者に取り入れられました。
菊と刀のルース・ベネディクトともアメリカの戦時情報局を通じて接触し、ゴーラーの研究結果をベネディクトは引き継いだようです。
ゴーラーへの情報提供者となった人々の中でも、特に多くを語ったのが現在の横浜共立学園の校長を長く務めたクララ・デニスン・ルーミスでした。
クララは1901年に当時の共立女学校の第4代校長となり、35年間その職にありましたが、戦争悪化のために離日しアメリカに帰りました。
他にも多くの日本滞在経験者たちから話を聞き、日本人というものの姿を描き出していきました。
その観察は、無遠慮なまでに真実をつかもうとしており、驚くほどです。
日本人の子供に最も厳しく行われるのはトイレットトレーニングだそうです。
実に4ヶ月程度の赤ん坊から始められ、よちよち歩きをする頃にはもう完璧だとか。
日本人にとって最もひどい制裁は嘲笑であり、顔をつぶされるということは最大の恥辱と捉えられる。
自分の身体や家屋については異常なほどに清潔を求める。しかし見えないところにはその関心は及ばず逆の行動を取る。
天皇の戦犯追求などは絶対にやらないこと。
これがゴーラーの日本観でした。
中世のカトリックの法王のような存在であり、それを攻撃するのは神聖なものを犯すように思われます。
このゴーラーの主張は一貫しており、戦時情報局もそれに影響されたようです。
なお、大外れ?と言えるのは、「浪人」が出現するかもしれないという予想です。
こういった混乱期には武力を携えた浪人が活動し、彼らが占領政策を妨害するかもしれないとしていますが、そのような行動をするものはほとんどありませんでした。
百聞は一見にしかずと言いますが、見る目さえあれば実際にそこに行かなくても物が見えるようです。
- 作者: ジェフリーゴーラー,Geoffrey Gorer,福井七子
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2011/04/01
- メディア: 単行本
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