爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「バルカン 〈ヨーロッパの火薬庫〉の歴史」マーク・マゾワー著

ヨーロッパの東端に位置するバルカン、日本人にとってはあまり親しみのある地域ではなく、なんという国があるかということも知られているとは言えないでしょう。

 

しかし、「ヨーロッパの火薬庫」と言われるような紛争の多いというイメージはあるかもしれません。

そういったバルカンの歴史についてイギリスの歴史学者マゾワーさんが詳説します。

 

まず、「バルカン」という名称はそれほど昔から使われていたものではありません。

19世紀ごろから、それまでは「ヨーロッパ・トルコ」と呼ばれていた地域をそう呼ぶようになったそうです。

もともとは半島の中央部を走る山脈の名前でしたがそれが地域名としても使われるようになりました。

そう呼ばれる地域はかつてオスマン帝国により支配されていたヨーロッパ地域であり、現在の国名で言えばルーマニアブルガリアギリシャアルバニア・そしてかつてのユーゴスラヴィアであった諸国を指します。

 

またヨーロッパではバルカンという言葉から「後進性」「暴力」そして「呪われた」というイメージを抱きやすいということです。

それもこの地域の歴史から由来します。

 

最近でも紛争に伴い多くの人々が虐殺されるといった事件が多発することから、「暴力」と結び付けられることも多いのですが、それはかつてのオスマン帝国支配に結び付けられることもあります。

しかし、オスマン帝国時代には様々な民族、宗教が混在していてもそれを理由に殺し合いが起きることはなく、平和に共存していました。

民族や宗教間の紛争が多発するようになったのはオスマン帝国の支配を抜け出し、民族の独立が成り立ったあとでした。

民族ごとに国を建てようにもあまりにも散在し、各民族が混在していたためにどこの国でも少数民族問題が起きました。

帝国時代には憎しみもなかった民族同士があちこちで殺し合うようになりました。

そこにはオスマン帝国の退陣に伴い勢力を伸ばしてきたロシア帝国、オーストラリア帝国の影響もあり、またそれらも退いた後には西欧の国々の思惑もありました。

 

次々と示される「虐殺」の事例は怖ろしいほどです。

しかしそれがあの地の事実なのでしょう。

そしてそれが歴史の中だけのことではなく現代の問題でもあるということでしょう。