先日書いた「自動車社会」についての文章の中で、電気自動車、水素自動車というものについても少しだけ触れましたが、それについてさらに詳しく述べてみたいと思います。
電気自動車といっても、昔東京などを走っていた「トロリーバス」のように架線を張り巡らしそこから集電して走るモーター車ならばまだ害は少ないのですが、今考えられているのはほぼ蓄電池に充電しそれを積み込んでモーターを回すというものです。
また、水素自動車には以前から開発されていた水素燃料電池車、すなわち水素を車中で酸化して発電しその電力でモーターを回すという方式のもの以外に、最近トヨタなどが非常に熱心に推進しているように見える「水素エンジン車」があります。
これはどう見ても電気自動車開発でヨーロッパ、アメリカ、中国などに大きく後れを取ったトヨタが一気に挽回しようとの焦りを見せただけに見えますが。
こういった自動車は原理的には昔から知られていたものですが、普及することもなかったのは石油系の燃料を使う内燃エンジン自動車にまったく敵わなかったからです。
それがこの二酸化炭素温暖化騒ぎによる脱炭素運動により急遽「敗戦処理投手」として登板するしかなくなったために登場することとなりました。
さて、現在の世界の自動車の台数は14億台以上だそうです。(2018年)
まったく恐ろしくなるほどの数であり、人間の5.3人に1台の割合に達しています。
一方、電気自動車の台数は2020年に1000万台を越えたそうです。
日産の推計によれば2030年までに1億4000万台に達するとか。
あれ、それでもまだ10分の1ですか。
あまりにも大きい数字なので日本だけで考えてみます。
日本自動車工業会の統計によれば、2020年で
乗用車が6200万台、トラックが1400万台、その他を合わせて4輪車で7800万台だそうです。
これもすごい数字です。
ちなみに、これも2020年で電気自動車は13万台足らず、燃料電池車(FCV)に至っては5170台、笑ってしまうほどの数字です。
これを見て欧米に遅れていると焦っている人もいるのでしょうが。
脱炭素化が必須だと焦り、しかも自動車社会の仕組みは変えたくないと思う人たちはこの膨大な自動車をすべて電気自動車や水素自動車に替えようと考えているのでしょうが、果たしてそうなるのでしょうか。
私の見るところ、その目論見の危うい点は次のようなものです。
電気自動車
必要資源の供給難。特にレアメタル、銅など。
充電用電力の供給不足。
水素自動車
圧倒的に低いエネルギー効率。(水素自体の製造、燃料としての効率)
水素供給網の構築の難しさ。
レアメタルの供給難
これは少し考えただけでも誰でも気づくはずです。
資源エネルギー庁が「EV普及のカギとなるレアメタル」なるサイトを作っています。
電気自動車には多くのレアメタルが必要です。
リチウム、コバルト、ニッケルなど、そしてレアメタルとは言えないかもしれませんが銅が大量に必要となります。
これは現在でも非常に価格が高騰しており、上記サイトでも「電気自動車の価格の3分の1はバッテリー」と書かれています。
「世界で1000万台」の状態でもそれです。これが「世界の14億台」すべてをEVにしようとすればどうなるでしょう。
資源エネルギー庁も「普及のカギとなる」などと夢のような事を言わず、はっきりと「EV普及は無理」と書くべきでしょう。
なお、「今は無理でも大量生産になれば何とかなる」という「大量生産信仰」を持つ人もいますが、このような「資源供給の問題」による制約の場合は大量生産などはかえって状況を悪化させるばかりでしょう。
さらに、現在は全台数でも13万台と微々たるものなのであまり問題にもなりませんが、「充電用電力」もEV台数が増えるにしたがって大きなものとなるでしょう。
それでなくても発電自体が石炭火力廃止などと言う暴挙を行おうとしているためもあり、現在でも苦しくなっています。
これに加えてもしも現状の自動車台数8000万台がすべてEVとなり、それが一斉に充電しようとしたらどうなるか。
しかも多くの自動車は昼間に使い夜に帰宅してから充電開始となるでしょう。
そのためにどれだけの発電所を増設しなければならないか。
そういったことも専門家なら分かるはずなのですが、それをまともに数字として出す人は居ません。
なお、そのような夜間の充電用電力のために「太陽光発電」は全く無力なのは言うまでもありませんが。
水素自動車はとにかく「水素はどうやって作って供給するの」に尽きます。
現在ではコスト的に何とか合いそうなのは天然ガスなどから作るものだそうですが、これはもちろん「脱炭素化」とは全く相容れません。
それを突き詰めれば「グリーン水素」となるのでしょうが、この太陽光発電や風力発電の電力で水の電気分解を行うなどと言うのは効率の点では最悪であり、経済的どころの話ではなくなるでしょう。
このような水素自動車などが街角を走り回る姿などは見ることはまず無さそうです。
このように、電気自動車、水素自動車に今の石油系内燃機関自動車を移行しようなどと言うことはほとんど無理でしょう。
だからと言って、自動車にこのまま石油を注ぎ込んでいくようなことがいつまでも続けられるわけもありません。
何とか自動車社会というものから脱却するしかないのですが、そのためには社会全体を組み替えなければならないということです。