地球の歴史全3巻の下巻です。
この下巻の最後に「長めのあとがき」が置かれ、著者が本書を著した気持ちが書かれています。
これを最初に読んだ方が良いのかもしれないと思いますが、「あとがき」である以上は最後に置かなければならないのでしょう。
理科4教科の物理、化学、生物、地学はかつては全科目必修で多少なりとも教えられていたのですが、現在では選択科目とされ特に地学は履修者が減少しており、1割以下の生徒だけが取っているそうです。
そのため、地球の歴史というものに触れることなしに高校を卒業し大人となってしまう人が大多数となりました。
そのような多くの日本人が改めて地球史というものに触れられるような本として、この本を著したという、壮大な目論見であったことが分かります。
そこには、「地球科学」というものが持つ特性のために、他の科学とは少し違った視点が必要であり、それを持つことは人間にとって有益であると著者は信じています。
それは、次の4つの視座と言えます。
①科学的ホーリズム 地球全体を一つのシステムとしてマクロに見る視座です。
②長尺の目 地球史を見ていくには生まれてから46億年という長い目が必要です。
地球温暖化を見る場合にも有効な視座であり、数十年単位のミクロな目とともに数万年単位の目も持たなければならない場合があります。
③歴史の不可逆性 物理や化学などのように何度も再現させることは出来ません。
④現場主義 地球科学では現場で本物を見なければ分からないことがたくさんあります。
色々と教えられることの多い「あとがき」ですが、ここまで行き着く人は読者の何割くらいいるでしょうか。
それはさておき、この下巻は中生代から始まり人類の誕生から現代までを扱っています。
この時期に出現した日本列島についても、1章を使って詳しく説明されています。
さらに、多少のズレは出るでしょうが必ずやってくる未来についても書かれています。
古生代の末期に「プルームの冬」などという大事件が起き、生物の大量絶滅が起きましたが、中生代には再び気候が暖かくなりました。
これは、地磁気の逆転と大陸の分裂による火山活動の活発化が関わります。
さらに、海中の酸素が消えてしまうという大事件も起き、海中の生物がほとんど死滅します。
この時に死滅した海中生物の死骸が大量に蓄積したものが石油となりました。
特にこの時期の生物の死骸が溜まってできた石油は良質なものです。
中生代には恐竜やシダ植物の大型化と繁栄が起きました。
そして、それが6550万年前の小惑星衝突により大量に絶滅しました。
直径10km程度の小惑星が現在のメキシコユカタン半島付近に衝突しました。
地震の規模で言えばマグニチュード11に相当する破壊が起き、高さ300mの津波が全世界に押し寄せました。
衝突による熱波は世界中で森林火災を引き起こしました。
その後、大気中に舞い上がった粉塵や煤は太陽光を遮蔽し、平均気温は30度近くも低下しました。
この隕石衝突という学説は1980年に出されました。
当初はそれ以外の可能性を説く学説も数多く出されましたが、そのうちに隕石衝突を支持する証拠が次々と見つかり、それに間違いないだろうということになっていきます。
ただし、恐竜はこれで絶滅していきましたが、哺乳類や海底生物は生き延びました。
その「絶滅と生存」の差がどこにあるのか、それはまだ不明のままです。
その後は新生代となるのですが、この時期に特徴的なのが「造山活動」です。
ヒマラヤやアルプスなど世界各地にある山脈はこの活動で出来上がります。
これらはいずれもプレートの移動と衝突で押し上げられて上昇しました。
なお、日本もその気候帯の中にありますが「アジア・モンスーン気候」と呼ばれる季節によって吹く風が反転する気候は、これらの造山活動でできた山脈や平原が大きく関わって成立しました。
基本的にはユーラシア大陸と太平洋、インド洋という海陸の配置が基盤となり、海流と大気の動きからこのような気候となっています。
日本列島の成立も明らかになってくるのはこの時期からです。
列島の中で最古の岩石というものは、20億年前のものが見つかっていますが、その頃はまだ列島ではなく大陸の一部でした。
古い太平洋から大陸に向かって海洋プレートが沈み込んで行くのですが、海洋プレートの上に溜まった厚い堆積物はプレートと一緒に沈み込むことができず、大陸プレートの上に押し付けられる「付加体」となって上昇していきます。
このような「付加体」の多くが日本列島を形成する地層となっているので、日本列島の複雑な地層を作り出しています。
また、西日本に多い石灰岩もこのようにして押し付けられた海洋生まれの付加体でした。
このような付加体の一番高いところは、現在の南アルプスとなっています。
そのため、南アルプスでは砂岩や泥岩などの堆積岩が多くなっています。
赤色チャートと呼ばれる地層も混じっているために、「赤石山脈」と言う名のもとになった赤色岩が残っています。
一方、北アルプスは一時は巨大な火山でした。
この一帯は世界でも有数の大きさのカルデラであったそうです。
最近のこのわずか1万年の温暖な気候で人類は繁栄していますが、この後のことも予測できます。
イエローストーン火山の巨大噴火は約60万年ごとに発生しています。
この発生機作は日本のカルデラとは異なり、マントルプルームから大量のマグマが吹き出すことによります。
前回が63万年前ですので、周期から言えばいつ起きても不思議はありません。
日本のカルデラ噴火は最近12万年の間におよそ7000年に一度の周期で発生しています。
前回は7300年前に鹿児島県南部の鬼界カルデラで発生しており、その火砕流で南九州の縄文文化は壊滅しました。
その後、北部九州を経由して別の人々が入ってくるまでは無人地帯となっていました。
こちらも周期を考えると発生が迫っていると考えられます。
地球規模で将来の予測をしてみると、大陸の分裂と合体は数億年のサイクルで繰り返されています。
約2億年先にはすべての大陸が合体した超大陸ができるでしょう。
その超大陸にはすでに名前が付けられており「超大陸パンゲア・ウルティマ」あるいは「超大陸アメイジア」となっています。
さて、さらに10億年先には海水がすべてマントルの深部に取り込まれてしまい、地上の海はなくなります。
現在の火星はすでにその状態になっており、地球もそれを追いかけることになります。
そこではもはや生命は存続できないでしょう。
まあ、そこまで「長尺の目」を使う必要はないでしょうが、せめて数百年、数千年程度を見通す目は身につけたいものです。