学校で習う歴史はどこでもせいぜい太平洋戦争までで、戦後からの現代史はほとんど触れられることがなかったようです。
50年前の私の学生時代はそうでしたが、今は少しは変わったのでしょうか。
学年も最後の方になり時間がなくなるからというのが表向き?の理由でしたが、本当は現代史は現在の様々な勢力と直接関わることが多いために面倒だったのでしょう。
本書著者の谷口さんは、日経ビジネスの記者のあと明治大学や慶応大学の教授、様々な研究所の研究員などを務め、その後内閣審議官に就任したという方で、国際政治に詳しい方です。
機会があって、海上自衛隊の幹部候補生の練習航海に同行することがあり、そこで彼らに講演をすることもありました。
彼らは今後海上自衛隊の指導者として、このあと様々な国の主に海軍軍人たちと触れ合う機会は多々あるでしょうが、そこで相手の歴史背景が本当に分かるかどうか、極めて危ういものだということに思い至ります。
本書にも1章が設けられていますが、インドはこの先も日本と極めて近い関係になるでしょうが、彼らが中国に非常に警戒心を持ち、敵意まで持っているのはなぜかということが、海上自衛官ばかりでなく大抵の日本人はよく知らないことでしょう。
実は、1962年に中国とインドとの間で戦争があり、そこでインドは手痛い敗戦を喫しました。
この時期はアメリカとソ連の間にキューバ危機があり、両大国がそちらで手一杯の時期を狙ってインドに一撃を加えておこうという中国の意図がありました。
とはいえ、中国はこの一戦に周到な準備をしており、開戦の時期を狙っていたものと見られます。
幸いにも全面戦争となりませんでしたが、数千人の兵士が捕虜となったインドの屈辱感は激しいものでした。
それ以来、インドの対中国の警戒心は緩んだことはないそうです。
このように、日本人として知っておくべき「当用現代史」すなわち、当座の役に立つことだけでも現代史として知っておこうというものを解説しています。
慶応大学の大学院の学生向けの講義として行われたもので、彼らはこれを聞いてその感想レポートを毎回書いたそうです。
項目は、
戦後の日本の復興とアメリカの援助、
共産主義の広がりと、それに対し日本を自陣営に止めようとするアメリカの努力、
中国とインドの戦争について、
スエズ危機という、アメリカとイギリスの間の覇権を争った事件、
ブレトン・ウッズ体制という戦後システム、
1971年のニクソン・ショックとはなんだったのか、
中国リスクというものの本質は毛沢東の大躍進政策の大惨状に現れる
それでも日本は楽観論
といったもので、たしかに学校の歴史では今でも扱っていないものでしょうし、これを知らなければ現代を理解するということが難しいと言えるものです。
私も、スエズ危機、ブレトン・ウッズ、ニクソンショックといったものについて、名前は知ってはいてもその内容についてはあまり理解していなかったと感じました。
なお、事実を知らなければならないのは確かなのですが、この著者の谷口さんはとにかく政府にも深く関与している体制側の人ですので、その意見は完全にその色になっていますので、それには気をつけなければいけません。
事実は事実として受け入れ、その意見を問題視する。それができなければこの本は読むべきではないでしょう。