日本語の敬語というものは、かなり複雑にできているようで、外国人が日本語を習う場合のかなり大きな障壁となっているようですが、それ以上に日本人が話す場合にも間違いだらけになる要因であるようです。
著者の西谷さんは出版社勤務の後独立して辞典の編集執筆をされてきたということで、色々と敬語の使い方については思うところが多いのでしょう。
本書構成は敬語の仕組みと基本についての解説があり、その次に主な誤用の原因が述べられています。
特に強調しているのが、「二重敬語はだめ」ということで、敬意が全く無いぞんざいな言葉の使い方もダメですが、一見丁寧すぎるように見える二重敬語もダメだということです。
さらに本書の副題にある「迷った時にすぐ引ける」に表されているように、言葉のそれぞれについて使い方を詳細にあげられているのが特徴かと思います。
そのため、ある特定の動詞、たとえば「行く」について敬語表現がどのように使われているかということを知ることができ、実用書的な使い方もできるというのが売りの部分でしょう。
ただし、敬語の原理的な構造などを知りたいという目的には少し合わないかもしれません。
興味深い記述が「”させていただく”の罠」というところです。
これも、テレビなどで有名人のインタビューなどを聞いているとあちこちに聞かれる表現です。
ある俳優のインタビューの答えが引用されていました。
「今回あこがれの大先輩と舞台をご一緒させていただき、また、共演者の方々とも楽しくやらさせていただいて、実りある時間をすごさせていただきました」
どの語尾にも「させていただく」を付けて、控え目な態度を見せようとしています。
しかし、インタビューの場で目の前のインタビュアーや雑誌記者などには関係のない話であるのに「させていただく」を連発するのはどうでしょう。
必要以上に使うのは時には卑屈に聞こえたり、口先だけのように見えるということです。
まさに、私の受ける感覚とぴったりです。
「与える・やる」という動詞の敬語表現について。
「与える」という表現には「上から下へ」という意味が含まれているので、さらに尊敬語を加えて「お与えになる」「与えられる」(可能の意味ではなく)というのは語法上は正しくても意味の上では馴染みません。
スポーツ選手が「勇気を与えられる選手になりたい」などと言うのも、この場合は可能の意味ですが、上からの物言いに聞こえて感心しないということです。
これは、最近よく耳にすることのようです。
各動詞の個別事例の中から、
「その話はいつお知りになられましたか」
これは二重敬語の過剰表現で、「✖」だそうです。
ついうっかりと使ってしまいそうなところです。
「お知りになる」だけで尊敬表現であり、それに「れる」という尊敬の助動詞が付くと過剰になって間違いということです。
いやはや、敬語は本当に難しい。