爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「コロナの時代を生きるための ファクトチェック」立岩陽一郎著

200ページほどの単行本ですが、カバーが可愛い少年のイラストになっています。

そのためか、当地の市立図書館では「児童書」に分類され、「児童開架」というコーナーに置いてあるようです。

中味は若い人向けということで多少多めに漢字にルビがふってありますが、内容は極めて社会問題直結のもので、少なくとも高校生以上でなければ理解できないと思いますが、良いんでしょうか。

なお、私がこの本を見つけたのは図書館休館でネット探索から予約をしたためで、そうでなければ絶対に目に留まらなかったはずです。

 

著者の立岩さんはNHKアメリカ駐在も経験され、フェイクニュースを目にする機会も多かったようです。

そこで、ニュースの信頼性を確かめるファクトチェックということの重要性に着目し、弁護士の楊井人文さんと共にFIJ(ファクトチェック・イニシアチブ・ジャパン)という団体を立ち上げて活動されているそうです。

 

著者が初めて「ファクトチェック」という言葉を知ったのは、アメリカ駐在中の取材で、オバマ大統領の演説を聞いた時、周囲の記者が大統領の演説中にすぐにパソコンで話題になった内容のファクトチェックをしていた時でした。

大統領の発言をそのまま流すのではなく、検証しながら流すということを日本では当時だけでなく現在でもできていません。

なお、ファクトチェックは「フェイクニュース」を見つけるためかと思われていますが、必ずしもそうではなく事実はどうかということを確かめるというのが一番の目的です。

その結果、フェイクであるということが分かることもありますが、それを目指しているわけではありません。

また間違いを批判するといったことも直接の目的とはしません。

もちろん、間違いははっきりと根拠を示したうえで提示し、もしも意図的に間違いを流すものに対してはそれも明示します。

 

今回の新型コロナウイルス感染拡大においては、様々なニュースが発信されましたが、中には不確かなものや、意図的に歪曲されたものなど多数が見られます。

特に世界的な感染となったために日本人の眼に付かないところで日本に関するニュースが流れるということも多く、そこにはフェイクも数多く出ています。

 

昨年の春にはオリパラ開催のためにPCR検査を制限しているのではないかと言う憶測も広がりました。

延期を決定した3月24日の直後に東京都の感染者数が急増したことから、延期決定までは検査を制限していたという観測が、かなり有名な人のツイッターでも見られました。

まあそんなことは無いだろうというのが直感的にも分かりますが、やはりファクトチェックとなると色々な数字や直接のインタビューも実施して結論を出すそうです。

 

当時の安倍総理が「休業補償を行っている国は世界に例がなく、我が国の支援は世界でもっとも手厚い」などと言ったというのも記憶にあります。

これも一つ一つ問題点を洗い出しました。

世界には例がないと言えるのかどうか。

ドイツの制度をJETROの資料で調べても、日本同様の業種に支援がされています。

これだけではチェックとならないので、ドイツ在住の日本人音楽家に直接尋ねるということをしています。

すると、インターネットからの手続きで申し込みその2日後には振り込まれたという実態が確かめられ、「日本が手厚い」などということは全く違うということが分かります。

 

他にも武田邦彦氏、岡田晴恵氏、と言った有名人の不正確な発言についても検証されています。

 

また海外で日本の有名人が発言したということが流されるという事例も頻発していますが、中身はとんでもないものもあるようです。

京都大学本庶佑教授が、ウイルスは武漢の研究所で作られ研究員が何人も亡くなったと語ったという書き込みがインドで出回るということがありました。

もちろん完全なフェイクで、日本人の有名なノーベル賞学者の名前だけ使って信憑性を上げようとしただけのものですが、インドの問題ということで京大も本庶さんもまったく気づいていませんでした。

台湾政府が台湾でもマスク不足であるにも関わらず日本に数十万個のマスクを送ったというフェイクニュースも流され、それに当時の河野太郎防衛大臣が感謝のメールを送ったというものが流されました。

いずれも事実無根のものですが、日本ではまったく気が付かないまま現地で広がるということになっていました。

 

人々の関心が非常に高まるところでは、とんでもないフェイクニュースが出てくるものです。

ファクトチェックということが必要なのでしょうが、なかなか間に合わないでしょうから、まず一人一人が意識していることが必要でしょう。

特に、無批判にリツイートなどで広げるという行為は注意が必要でしょう。