福岡市で起きた春菊の農薬汚染事件について、福岡市の発表があまりにも過剰に危険性を強調しているのはなぜかと言うことはすでに記しました。
おそらく市の担当者やその上司も残留農薬の基準値というものが何かということを知らないまま発表し、もちろん報道機関の記者たちはその知識があるはずもなくそのまま報道したのでしょうが、今のところ訂正も行われていないようです。
まあ、知らんぷりでほとぼりが冷めるのを待つのでしょう。
とは言え、自分自身もその基準値決定の方法をそれほど確かに理解しているわけでもなかったので、これを良い機会に調べなおしてみました。
下記の農水省が説明会を開いた時に使われた資料が分かり易いようです。
https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_drift/iken_kokan/pdf/h180404c.pdf
この中のグラフが見やすいので、転載させてもらいます。
(通常は文書内のグラフなどの引用は避けているのですが、今回は分かり易いのでご容赦願います)
農薬などの毒性を調べるためにはどうしても動物を対象に毒性試験をしなければなりません。
色々な試験をするのですが、その試験によって安全な濃度というものは違いがあります。
しかし、どのような試験でも問題が出ないという濃度があり、この図中では「悪影響がない範囲」の一番右側、高濃度のところがその濃度となります。
この濃度をさらに「安全係数」というもので割ったものがヒトの許容一日摂取量(ADI)となります。
安全係数というのはこの試験はあくまでも動物に対するものであり、ヒトとは異なるということで10分の1、さらに個体差がどうしても大きいものとして10分の1、合計して100分の1とするという数値が通常使われます。
つまり、「悪影響がない濃度範囲」をさらに100分の1にした濃度がADIなのです。
なお、今回の場合はADIではなくARfd(急性参照容量)が使われていますが、考え方としては同じようなものと思ってください。
今回の春菊の場合、「体重60kgの人が一日に20g食べた場合」というのがこのARfd、すなわち「一日に食べても安全な濃度」に当たるわけで、「これだけ食べても大丈夫」という量になります。
その100倍を一回に食べれば、有害な影響が出ることもあり得るでしょう。
それは20gの100倍、2㎏となります。
さすがに、それくらい食べれば何らかの影響が出そうです。
なお、農薬の残留濃度規制に関しては「ポジティブリスト」というものも関わってきます。
これも上記の農水省説明資料の後半に含まれています。
平成15年から施行された制度で、それまでは農作物に対して使用が認められた農薬以外のものに対しては規制基準がなかったのですが、それ以降は一律基準として0.01ppmという非常に低い濃度が定められ、これ以上のものが検出されたら「アウト」となることになりました。
これは安全性や毒性とはあまり関係のない話です。
つまり、「使ってよい農薬以外のものは使ってはいけない」ということを規則として定めるため、「濃度0.01ppm」という検出感度ギリギリの低い濃度を定めたということです。
今回も問題のイソキサチオンは春菊には適用されていません。
いろいろと面倒な話が出てきて、それなら「やはり無農薬が安心」となりそうですが、農作物を必要な量だけ無事に生産するためには、やはり農薬は不可欠となっています。
今回の問題農家のような、意識の低い行動をすることは他のきちんとやっている農家への悪影響にもつながり、くれぐれも慎んでいただきたいものです。