新型コロナウイルス感染を抑える切り札と言えばやはりワクチン開発でしょうが、しかしこれまでの日本でのワクチンを考えてみると、「ワクチン忌避」という傾向が強いことが指摘されます。
こういった状況について、リスク学研究をされている永井孝志さんが解説されています。
冒頭の「要約」でまとめられている文章が核心をついています。
ワクチンによって救われているはずの多数の命は「単なる統計的情報」である一方、ワクチンの副反応で苦しんだ特定の個人の声のほうが心理的なインパクトが大きくなるので、メリットよりもデメリットに注目が集まりやすくなります。
永井さんは例としてあげていませんが、私たちの記憶にも鮮明なのは子宮頸がんの予防に有効であるとして推進されたHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン接種の問題でしょう。
これでHPVの感染を防ぐことで子宮頸がんの発症が大きく削減できるとされていましたが、このワクチン接種で原因不明の激痛に悩まされる例が出たため、接種希望者が激減してしまいました。
この例もまさにここで示された「苦しんだ特定の個人の声」が注目されたためでしょう。
永井さんの文章は次いで、「日本は世界でももっともワクチンに対する信頼性が低い国だ」と書かれています。
医学論文誌のランセットに載った論文で、世界各国のワクチンに対する意識を調べたものですが、ワクチンの安全性・有効性に対する信頼性が高い国も多い中、日本は極めて低い数字だったそうです。
ただし、これは今回の新型コロナ感染前の調査ですので、今では少し変わったかもとされていますが、どうでしょうか。
さらに、「特定できる被害者情報効果」(identifiable victim effect)という概念がこれに関連して説明されています。
これは被害者の名前や顔、性格などが知られ、特定できる場合にはその被害に対しての同情が大きくなり行動に影響を与えるというものです。
災害や事件などでの被害者の名前すら隠すという動きもありますが、逆に人々の関心を集めるために発表しようとすることもあります。
やはり、被害者の名前や顔、年齢などが分かるとそれに対して反応してしまうのでしょう。
ただし、これは良いことばかりではなくその被害者にばかり募金など支援の動きが強まってしまいその他の方向に向かなくなるということもあり得ます。
これが「ジェシカちゃん問題」だったそうです。
これと逆に、大きな利益を受ける人が多数であってもそれは単なる「統計情報」にしか見えません。
このワクチンで年間300万人が救われるといった話は、ユニセフが度々発表していますが、これがまさにその「統計情報」です。
それに対し、そのワクチンの副作用で数人が死亡したり重い副作用に苦しんだというと、その名前が発表されれば「特定できる被害者情報」になります。
数人と数百万人、命の重さは一緒でしょうが世間の反応は違うことになります。
さらに「マンホール問題」にも言及されています。
「マンホールに落ちた人を救った人は称賛されるが、マンホールの蓋が開いていたのに気づいて落ちる前に蓋を閉めた人はその行為さえ気づかれない」
その行動の効果は未然に転落防止をした人の方がはるかに大きいのに、世間の評価は別だということでしょう。
さて、それでは今度の新型コロナウイルスのワクチンが出始めたらどうなるか。
おそらく多かれ少なかれ副作用発生はあるでしょうが、それに世間はどう反応するか。
御用マスコミは副作用発生をきちんと報道するのかどうか。
注目していくべきでしょうね。