イギリスは大陸と隔てられてはいるもののその距離が近かったためか、繰り返し民族の移動が起きました。
複雑な歴史を持ち、それが現在の英語の複雑さ(というか混迷と言うか)につながっています。
そのようなイギリスの歴史について、古代から現代まで50章に分けて解説し、概要だけでもつかめるようにしようというものです。
そのため編著者として法政大学名誉教授の川成さんが居ますが、他の各章はそれぞれの時代の専門家が分担して書いたようです。
複数の章を書いたのはわずかでほとんどは一人一章担当、各章ごとにコラムもありますが、それも別の方が書いています。
およそ2000年前にローマ人がブリテン島に侵攻し属領としました。
それ以前にはケルト人が住んでいたのですが、その歴史には不明なところもあります。
しかし、それ以降を「イギリスの歴史」と考えると、大まかに言えば500年を区切りとしてはっきりと分けることができます。
ローマ侵略から500年はラテン語のローマ時代。
次の500年、ローマ人は去りアングロサクソンの諸族が多くの王国を立てます。これが古英語のアングロサクソン時代。
次の500年はフランスに住んでいたノルマン人が占領したフランス語のノルマン時代。
そして最後の500年になってようやく英語の近代イギリス時代となります。
その各時代の人間も言葉も完全に消えることなく現在に続いているというところが、イギリスを複雑にしている要因です。
各時代、さまざまな項目について詳述されているので、それらをすべて記述するわけには行きませんので、印象的な部分のみ書き留めておきます。
17世紀にオリバー・クロムウェルが起こした政変を「ピューリタン革命」と呼ぶことが多いのですが、それは19世紀のリベラルな学者が呼び始めた言い方であり、当時はそのように呼ばれることは無かったようです。
同時代の文筆家ホッブスは著書のなかで「あの忘れることのできない内戦(シヴィル・ウォー)」と呼んでいます。
また叛乱(レべリオン)と呼ぶこともありました。
これは、ホッブスが国王派であったという理由がありそうです。
しかし、最近のイギリスの学界でも「ピューリタン革命」という用語はほとんど死語に近く、「三王国戦争」(イングランド・スコットランド・アイルランド)と呼ばれるころも多いそうです。
他にも「イングランド内戦」とも呼ばれるとか。
コモンウェルスという言葉は何となく聞いたことがあったのですが、「イギリス連邦」が「British Commonwealth」であり、最近はブリティッシュという言葉を避けて単に「コモンウェルス」とだけ呼ばれるそうです。
帝国主義の本家のようなイギリスというイメージですが、その成り立ちは複雑でアフリカなどの植民地、インド帝国(イギリス国王が皇帝)、そしてアメリカやカナダなどの国々を含む緩やかなつながりというものでした。
移民問題も現代イギリスでは非常に大きなものですが、かつては「イギリスから植民地へ」向かっての移民?が大きな意味を持っていました。
その地で植民地経営にあたるのですが、それがかなりの人数が居たようです。
現在のイギリスへ向かう移民は、その当時の植民地だった国々からの人々が多く、歴史の必然とも思わせるものです。
本書は2016年の出版で、かろうじてEU離脱の国民投票までは入りましたが、その後の混乱は含まれませんでした。
この先どう展開するか、他人事ではありません。