大学入試の問題とは高校での学習内容の範囲内ではありますが、各大学の入学生選抜の意図がはっきりと出ていて、受験する当人にとっては何とか高得点を取るというのが目標でしょうが、すでにすべてが終了してしまった年寄りにとっては、非常に面白いというものです。
これまでも、日本史の問題で東大、一橋大の問題を扱った書籍を読みましたが、今度は「古文・漢文」問題です。
古文や漢文の問題なんて、それほど大した意味も込められていないだろうと思うのが普通かもしれませんが、どうもそう簡単なものではなく深いものがあるようです。
1991年度の入試問題に使われていたのが「大和物語」、名前くらいは聞いたことがありますが、目にしたことがあるという人はほとんどいないでしょう。
しかも、対象が平中興、(たいらのなかき)、平安時代の貴族で、娘を帝に入内させようとしていたのが、病にかかってしまい、その平癒のために祈祷を頼んだ高僧に娘は恋をしてしまうという、すごい話です。
もちろん、試験問題のポイントは違うところにあり、設問の文章には主語が明示されていないために解釈が間違ってしまうということなのですが、内容に気が取られて問題に注意が向かない恐れがあります。
漢文の方では、1999年度の問題の高麗人李奎報の文章「東国李相国集」からとったものが興味深い内容です。
(それにしても、人物も書物もまったく聞いたこともありません)
李氏は旅をしているのですが、船を雇って川を渡るのに、自分の船と横の船とほとんど一緒のように見えても隣の船の速度は非常に速いのです。
なぜかと船人に聞くと「あっちの船はこぎ手に酒をふるまっているから」だとか。
そこで李氏は、このようなところでも人は賄賂によってしか動かないということを思い、これを後までも自戒しようということです。
試験問題としては、その自戒の文章の意図をまとめよというものですが、この本では著者の田中さんはこう深読みしています。
「東大と言う、その後はエリート官僚となるような学生を選ぶ場で、このような設問を通してエリートの資質を問うという出題者の意図がある」
ほんとかどうか知りませんが。
なお、この問題の解答例でも「賄賂もやむを得ない」という答えを書く受験生が少なくないとか。
この頃から汚職官吏となる素質が溢れているということでしょう。
さて、私も大学受験の際には理系ではあるものの古文・漢文も含まれていました。
しかし、こんな高度な問題を解くような勉強をした覚えはまったくありませんでした。
結局、ほとんど国語では点数が取れていなかったのでしょう。
よく合格できたものだと、今更気づく迂闊さ。