爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「オリンピック 反対する側の論理」ジュールズ・ボイコフ著

著者のボイコフさんは現在は大学の政治学教授ですが、もとはサッカー選手でバルセロナ五輪には米国代表として出場したこともあります。

しかしその後は反オリンピック運動に参加するようになりました。

 

2020東京オリンピックではちょうど蔓延していた新型コロナウイルス感染もあり開催反対運動が日本でも盛んになりました。

しかしなんとか1年遅れて開かれると日本の反対運動はすっかりしぼんでしまったようです。

 

一方、次回・次々回の開催地として一気に決まったパリ、ロサンゼルスでは開催反対運動も根強く行われているようです。

 

本書ではオリンピックに反対する運動について歴史的に解説、さらにロサンゼルス五輪反対運動を行っている「ノーリンピックスLA」という組織の活動の紹介などを中心に説明していきます。

最後には補章として日本の反対運動関係者の文章も紹介されています。

 

オリンピックのあまりにも巨大化した現実を見て、巨額の負担を嫌う住民が増加し開催地に立候補する都市が激減するという事態になっています。

オリンピックの開催には世界のどこでも次のような問題を引き起こすことは共通です。

1,過剰支出

2,設備は五輪後は使われず維持費ばかりを食いつぶす「白象」現象

3,強制的な立ち退き

4,公共領域の軍事化 (テロ警戒の過剰反応)

5,グリーンウォッシング

6,偽りの約束

 

このような情勢が一段と広がったのが前回、1984年のロサンゼルスオリンピックでした。

この大会は成功したと言われていますが、実際には上記の問題点を明確にしただけでした。

すでに計画段階より多額となると考えられた追加費用の支出をめぐりロサンゼルスの市長を巻き込む政争となり、市議会は追加費用の支出を禁じてしまいました。

そのため、マクドナルドやセブンイレブンなどのスポンサーから多額の寄付を受けその代わりに独占を許す、またテレビ局へ放映権を高額で売却するといった、現在のオリンピックに続く金まみれの問題点を作り出したのがこのロサンゼルス五輪の時でした。

それまでのIOC会長ブランデージの「ビジネスとスポーツは別」という理念をひっくり返し、スポーツをビジネスとする現IOCに変わったのがこの時でした。

 

IOCの理事たちの金に関する醜聞は大変なものです。

開催地決定をめぐっては多額の賄賂を取るのが当然のようになり、委員の周辺に対しても巨額の金が流れるようになっています。

日本のJOC会長の「日本の君主であった明治天皇の曽孫である」(と紹介されています)竹田恒和IOC委員に賄賂を贈ったという事件についても触れられていました。

しかし他の連中の醜聞は竹田のやったことなど小さいことのように見えるほどのものです。

 

日本では終わってしまえば火の消えたように反オリンピック運動などは消えてしまいました。

こういったところが日本人の弱点なんでしょう。