香山さんの本は何冊か読んでいますが、この本はご本業の精神科医として多くの患者さんに話を聞いていてその中に潜む大きな精神疾患の要因「他人との比較」をまとめたものです。
なお、こういった問題は性別年齢別を問わずにあるものなのでしょうが、この本では特に多い?と思われる若い女性を取り上げ、その人達に特有の問題点について解説しています。
ただし、本当にこれらの問題に切実に悩んでいる人たちは、読んでも解決には至らないかもしれませんが。
「他人との比較」で悩むのは若い女性に限らないと言いましたが、この本の最初に取り上げられているのは、石川啄木の短歌です。
「友が皆われよりえらく見ゆる日よ 花を買い来て妻と親しむ」
「友達はみなすごいな」と悔しい気持ちで落ち込んでいるのかと思えば、「ノロケかよ」と著者ははじめにはそう思ったそうです。
しかし、やはりこれも「比べ合い」に囚われた啄木の思いが現れているもののようです。
著者は、「比べ合いの法則」というものを示します。
1.常に自分より恵まれている人、幸せそうな人と比べる
2.自分も恵まれているかも、などということは目に入らない
3.「相手は幸せそうに見える」だけで本当は違うかもなどということは思いつかない
4.自分が今の生活に満足していても、「あの人の方が上」という人が見つかるとすぐに比べ合いにとらわれる。
自分が普段から憧れること、欲しいもの、なりたい状態ということをすでに成し遂げている人が居ると、その人との「比べ合い」にとらわれがちです。
その人が本当は幸せでないかもしれないなどということは思いもしません。
若い女性で、なかなか結婚できない人にとっては、友人知人が続々と結婚していくといった事態は耐えられないものかもしれません。
しかし、一見幸せそうに見える他人の結婚生活も、中身はまったく違うということの方が多いのが当然です。
ただし、だからといって自分が結婚していないことを自慢するのも間違いで、これも他人との比較ということに囚われすぎのようです。
女から見てもブサイクなのに男にもてる人と言うのは確実に存在します。
「私の方が美人なのになんで」と思うこともあるようです。
著者は、あの「婚活大量殺人事件」の木嶋佳苗に興味をいだき、裁判の傍聴に何度も足を運んだようです。
彼女は見た目はかなり太め、決して美人とは言えない外見ですが、多くの男性を引きつけ多額の金銭を受け取った挙げ句、殺人まで犯してしまいました。
しかし、その仕草や言葉など、精神科医の著者も「もう少し話を聞きたい、見ていたい」と思わせるような魅力のあるものだったようです。
つまり、木嶋は「相手が女性に求めるものはなにか、女性との交際でどういう気持を味わいたいか」ということを敏感に察知し、それを演じる能力が高かったのではないか。
こういう行動というものは、参考にできるものはしておいたほうが良いようです。
金持ちの息子との結婚、いわゆる玉の輿ですが、こういう結婚をした女性には知人友人などは皆うらやむのでしょう。
しかし、著者はこれに対しては明らかに「夫の実家はリッチじゃない方が良い」と言い切ります。
確かに、結婚式披露宴は豪華にできるでしょうし、家や車も買ってもらえることもあるかもしれません。
しかし、タダほど高いものはない。「カネは出すけどクチは出さない」などという人はめったに居ません。
夫は実家の口出しに文句一つ言わず、それでさらにイライラが溜まりがちだとか。
夫の実家に金さえなければ「私達は勝手にやりますから」ということが言えるのですが、なまじ有るために、そしてそれでけっこう色々と買ってもらうこともあるために、言えないことがストレスにつながります。
著者の診察体験で顕著なのは、かつては多くの人が感じていた「世間が悪い、社会が悪い」という思いが、このところ激減しており、その代りに「自分が悪い」と思い詰める人が増えているということです。
診察の時に、「自分の責任だ」とうなだれる患者に、社会が悪いのかもと諭してもすぐには理解もできないようです。
これに気づくだけですっかり気分が違ってくることもあるとか。
「社会が悪い、政治が悪い」と言い続けてきたかつての若者には驚きの状況です。
「他人との比較」、あまりやりすぎるのも困ったことなのでしょうが、他人のことなど何の関心も無くなるのも老化なのでしょう。