爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「なぜ本番でしくじるのか プレッシャーに強い人と弱い人」シアン・バイロック著

ここ一番という大舞台で実力が発揮できる人と、できない人。

スポーツや芸術のプロ、政治や学問の場でもそういった実例がいくらでも見つかります。

それがなぜなのか、そしてどうすれば防げるかということを、心理学の一線級の研究家のバイロックさんが、最新の理論と多くの実例をひいて説明しています。

 

なお、原題は「Choke」です。主な意味は「窒息させる」とか「詰まらせる」とかで、我らの世代から見るとかつて良く見ていたプロレスで、喉を締めるとレフェリーが「チョーク」と言って止めさせたのを覚えていますが、この本では大事な場面でストレスで失敗することに使っています。

 

「大事な場面でアガってしまい実力が出せない」と言うことを説明するにあたり、本書では「ワーキングメモリー」と言う理論を使っています。

 

これは、心理学の分野では最近多く使われているということですが、コンピュータのメモリになぞらえて、人間の脳の中にもそのような領域があり、それは人によって容量や速度が異なり、それが知能の能力を左右するという理論です。

日本語では「作業記憶」「作動記憶」などと訳されていますが、本書では「頭脳馬力」という訳語を使っています。

これは短期の記憶を司る働きをする脳の領域ということで、これが多く動作も速い人はいわゆる「IQテスト」などで高得点を取れる人だということです。

 

ただし、これが強すぎる人は逆に柔軟な発想力には欠けるようで、逆転の発想や独創的な思考などという能力は乏しいとか。まさに、受験秀才とか、官僚的才能といったものなのかもしれません。

ワーキングメモリーの容量を測るといった実験も行われているようですが、それについては興味あるもののここでは詳細は触れられていません。

 

このワーキングメモリーが多い人間は一般には知的能力が高いと思われていますが、これがチョークを起こしやすい原因にもなっているようです。

大事なところで考え過ぎると失敗しやすいという、誰でも気づきそうなことですが、それが結果につながっているようです。

 

ここからはさすがにアメリカと言うべきか、脳の男女差の問題や、人種による影響など、そちらの記述量が多くなっていきます。

あまりプレッシャーには関係なさそうですが、実際は学校の試験などに向かう時に「女性の仕事」であるとか、「黒人の能力」といったことを意識させると女性や黒人ではそのストレスが大きくなり、実力が発揮できないということにつながるようです。

 

プレッシャーに負けると言う実例は、スポーツの現場で頻繁に目にすることです。

1996年のマスターズでのグレッグ・ノーマンの最終日の失敗や、1999年の全英オープンでのフランス人ゴルファー、ヴァン・デ・ヴェルデの最終ホールでの大失敗など、有名なものに事欠きません。(その後、フランス語では「ヴァン・デ・ヴェルデ」という言葉がプレッシャーに負けて大失敗すると言う意味で使われているそうです)

 

考え過ぎるから考えるなと言うわけにも行かず、逆に「集中しろ」と言うアドバイスはまったく逆効果ということも多く、知った人が応援しているとかえってストレスがかかるとか、一度この「チョーク」状態に陥ったらどうすればよいか難しい問題のようです。

 

「ストレスに慣れる訓練」というものが重要であるようです。

バスケットボールのフリースローの練習も、練習時間の最後に自由にやらせるだけでは実際に試合の場で、「これを入れれば逆転勝ち」などという状況には役立ちません。

できるだけ色々なストレスをかけて練習させるといった工夫が必要なようです。

 

こういったストレスの中での行動という意味では、政治や経済の場での重要な発言も同様の意味を持ちます。

大統領選で候補者が演説をする場面で、プレッシャーでとちって落選につながった例など数多くあります。

演説会場に自分の家族がやってきたのを見つけて駄目になったということもあります。

本書の著者も実家近くでの講演会で父母の顔を見て急にプレッシャーを感じたことがあるようです。

 

私もあがり症で、かつて会社でのプレゼンや会議での発言などには苦労しました。

うまい対処法があればよいのでしょうが、そう上手くは行かないように思います。

 

なぜ本番でしくじるのか---プレッシャーに強い人と弱い人

なぜ本番でしくじるのか---プレッシャーに強い人と弱い人