ハラリさんの本「ホモ・デウス」をつい最近読んで、この人が最近欧米で注目を集めている歴史家であり、その前著「サピエンス全史」はミリオンセラーになっているということでしたので、その「サピエンス全史」を手にとってみました。
とはいえ、その「ホモ・デウス」は歴史書ではなく大胆に将来のことを予測すると言うもので、中身にはちょっと首をひねる部分もありました。
しかし、この「サピエンス全史」の方は少なくとも歴史書と言えるものになっています。
ただし、通常の歴史書とはかなり捉え方を変えているように思えます。
歴史書には通常頻出するような、様々な歴史的事件(大きくても小さくても)はあまり取り上げられていません。
また、歴史上人物の描写というものにもあまり興味はないようです。
それよりももっと深く、根本に関わるような人類自体の流れといったものを書こうとしているようです。
人類が他の動物のように獲物を追ったり果物を採って食べるだけの存在から、何十人もが共同で狩りをする存在になったのはなぜか。
草の実を植えて世話をし、従順そうな動物を捕らえて飼うということを始めてしまったのはなぜか。
そして帝国というものを作り出し弱い国々を攻め取り支配してきたのはなぜか。
こういった歴史観というものを活写しているのですから、多くの人が惹きつけられたのも当然かもしれません。
動物種としては大した能力もないように見える人類が、他の多くの生物種を絶滅させるようになるには、いくつかの飛躍があったようです。
それを、「認知革命」「農業革命」「科学革命」と名付け、その本質はなんであったのかということを説明しています。
(ただし、「科学革命」については下巻)
約7万年前に新人はアフリカを離れ世界中に分散していくのですが、ちょうどその頃から弓矢や針、舟といった道具の発明、おそらく宗教というもの、交易というものも発明したように見えます。
これはホモ・サピエンスと言う種に起きた認知能力の革命によって得られた産物だと見られます。これが「認知革命」ということです。
「舟」というものを使いこなすようになったということは、すでに陸続きではなくなっていた場所に移住している証拠が得られることで証明されます。
35000年前に日本に、30000年前に台湾に、オーストラリアやニュージーランド、太平洋の諸島にも続々と渡っています。
そして、それは各地の大型動物が絶滅させられていることでもはっきりと分かります。
人類が進出したところではあっという間に大型動物から姿を消してしまいます。
動物の絶滅は、その後も続いています。
今までは取りにくかったために生き延びていた海中の魚類にも人類の魔の手は伸びています。
マグロやクジラといった生物の存続が危ぶまれていますが、これもマンモスやディプロトドン、オオナマケモノなどと同様の運命と言えるのかもしれません。
農業革命は1万年ほど前に、全世界でほぼ同時に起こりました。
多少の前後はありますが、中東で小麦とヤギが、中国では稲とキビとブタが、南アメリカではジャガイモとラマが、栽培され、飼育され、農業社会となりました。
かつては、メソポタミアの農業が各地に伝えられたかと言われていましたが、どうやらそうではなく、それぞれ独自に始められたもののようです。
農業の開始で人々の生活が安定したと言われますが、本当は長時間の重労働が課せられ、食物も偏ってしまって栄養不良となりやすいという、人類にとって良かったのかどうか分からないものでした。
ただし、そのおかげで人口だけはどんどんと増えていきました。
また、各地で「書記」という連中を生み出します。
彼らがいろいろな表記方法で記録を残し、統治ということを可能にしていきます。
それは、支配と言うものを生み出し、各種の人間の格差と言うものも作り出していきます。
そこには「神話」というものも作り出され、それがあたかも格差を保証するかのような働きもしていきます。
次の記述には苦笑いです。
「今の時代、政治的な罵り言葉のうち、”ファシスト”を除いて最悪なのが”帝国主義者”だろう。しかし、実のところ過去2500年間のほとんどで”帝国”というのが最も一般的な政治組織だったのだ」
確かに帝国というのが人類の作り上げた政治組織で最強のものであり、現代はそれから解放されたかのように見せながら、実は「アメリカ帝国」「中華帝国」の基に支配されているだけかもしれません。
非常に刺激的な記述が多い本でした。
下巻もあるんですが、どうしようかな。迷います。
サピエンス全史(上) 文明の構造と人類の幸福 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福
- 作者: ユヴァル・ノア・ハラリ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
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