生物は遺伝子の変化で進化しますが、人類はかつてホモサピエンスとして誕生して以来遺伝子自体はさほど変わっていないものと見られます。
しかしその生物としての様態は隔絶したと言えるほど変化しています。
これには「進化を超える進化」があったというのが本書の主題です。
他の生物と異なり人類の進化には三つの要素がありました。
それが「遺伝子」「環境」「文化」であり、遺伝子という要素は他の生物でも同様ですが、それに付け加えられた変化の要素が大きかったことになります。
そして、「文化」を進化させるものが四つの要素であり、「火」「言葉」「美」「時間」であるとしています。
なかなか的確な発想と思います。
このような超進化と言える進化によって人類は地球環境を劇的に変えてしまい、地質時代も「人新世」であると言われるほどです。
そして人類は新たなホモ・オムニス、すなわち集合性人類とでもいう存在に向かおうとしている、それを詳しく解説しています。
「火」を扱うようになったのはホモサピエンスになる以前からですが、それが進化に大きく影響を与えたことになります。
生物がエネルギーを得る形態は色々ですが、自らの光合成に頼る植物は自力では動けません。
植物を食べる動物はより密度の高いエネルギーを得ますが、それでも一日中摂食しなければ必要量を得られません。
他の動物を食べる肉食動物はさらに密度の高いエネルギーを得ることができます。
しかし、「火」を得た人類はそれを使ってより密度の高いエネルギーを持つ食事を摂ることができるようになりました。
他の動物が体内で生化学的に食物を分解してエネルギーを得ているだけなのに、人類は火を使って調理し加熱された食物を食べることにより10倍以上も効率良く摂取できます。
そのために人類が食事にかける時間はせいぜい1日に1時間程度でその他の時間を別の作業に振り向けることができるようになったわけです。
人間が言葉を作り出しさらに文字を作り文書を書くことで、知りえた知識を後代に伝えることができるようになりました。
これは何もかも一からやらねばならない動物と比べてはるかにエネルギーを節約することができます。
天才科学者であっても一から考えた者はいません。必ず先哲の積み重ねの上に自らの考えを重ねていきました。
これが超進化を果たした一つの要因です。
人類はさらに進化し超生物とでも言わなければならない存在になろうとしています。
これをホモ・オムニス(集合性人類)略してホムニと呼びます。
ホムニの世界は理想的なものになるとは限りません。
多国籍企業により統治される自由のない世界になるかもしれません。
しかしますます一体化する世界はこういった方向に進むということでしょう。