爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「すっきりわかる 集団的自衛権Q&A」浅井基文著

安保法制の成立に向けた審議などで、さかんに集団的自衛権について取り上げられましたので、名前だけは聞いたという人が多いでしょうが、中身はさすがに難しいものでしょう。

外務省官僚から大学教授に転進した著者はこういった議論の現場にもいた方で、非常によく中身に通じているのですが、それをさらに分かりやすくQ&A形式で整理し、しかも各章末にはKEYPOINTとしてまとめるという、痒いところに手がとどくような本として作られており、分かりやすいものとなっています。

 

集団的自衛権というものは、今日の国際法でははっきりと違法とされた国の戦争をする権利というものとは異なり、例外として国連憲章で認められたものです。

しかし、これまでも数多くの事例がありある程度の共通認識ができている単独自衛権と異なり、集団的自衛権は国連検証で初めて登場したものであり、今でも適当な事例がないというものです。

その解釈にはいまだに多くの議論が残されているという状態のものです。

 

集団的自衛権が行使できるかどうかという議論があるのは、日本国憲法9条との関わりが強いからです。

日本が受け入れたポツダム宣言では、軍国主義の根絶・完全な武装解除・民主主義の確立ということがうたわれ、それに基づいて日本国憲法が作られました。

しかしその後の国際情勢の変化により、アメリカの補完勢力として自衛隊が作られました。

その交戦能力については、憲法9条と日米安保の折り合いの問題もあり、歴代の日本政府が苦慮しながら憲法解釈を操作することでごまかしてきました。

 

しかし、ソ連崩壊後の国際情勢変化にあたり、ヨーロッパはNATOの性格の変化を見越して激しい議論をした上でより強いアメリカとの協同ということを選択し、それに従っているのに対し、日本ではほとんど国内議論を行うことすらなく、徐々に行動を変えていくという手段を取りました。

湾岸戦争当時からその動きは強まり、アメリカからの拡大する要求に日本政府は世論をなだめながら様子を見つつ徐々に小出しにアメリカ軍協力を進めてきています。

 

アメリカはソ連崩壊後には新たな脅威を見つけようとし、イラク、イラン、北朝鮮ならず者国家として位置づけたクリントン政権、国際テロリズムを最大の脅威と断定し対テロ戦争に走ったブッシュ(子)政権、さらにサイバー・宇宙・海洋を新たに脅威の要素として付け加えたオバマ政権と続き、一貫して国際政治をパワーポリティクスと、自国の指導という原則のもとに位置づけています。

その中で、自国の財政負担を同盟国の役割分担でカバーしようとし、日本の関与を強く求めるようになっています。

オバマ政権は日米軍事同盟をNATO並のレベルに引き上げることを目指してきました。

 

その手段として、東アジアでは北朝鮮脅威論、中国脅威論を展開し尻込みしがちな日本や韓国の世論を変えようとしています。

軍事的常識では北朝鮮も中国も軍事的脅威にはなりえません。北朝鮮のミサイルと言っても数発を命中させれば良い方で、次の瞬間には国全体が消滅します。

中国脅威論も日本とアメリカの間ではかなりの温度差があり、尖閣問題で中国と軍事衝突があり得るかと言えばアメリカは絶対にノーです。

 

国の自衛権というものはどういうものであり、どういう経緯でできたのかについても詳細な説明がされています。

背景には国際法上での戦争の違法化ということがあります。

第1次大戦以降、戦争は市民全体を無差別に巻き込むものとなってしまいました。

そのため、戦争は違法であるということを確立しようという動きが強まりましたが、台2次大戦の後になってもいまだにはっきりとはできません。アメリカという超大国がその反対の動きをするからです。

しかし、国連の集団安全保障体制というものが一応は動き出しています。

そして、自衛権および集団的自衛権というものはその例外処置として位置づけられています。

現状では国連の理想の集団安全保障体制というものはまだ機能せず、アメリカなどの大国は従来の自衛権に訴えて武力行使を行うということを続けています。

 

国連の安全保障理事会では五大国が拒否権を持っていますが、かつてはソ連とアメリカが拒否権の行使をしあっていました。

アメリカは、それを避けるために「集団的自衛権」というアイデアを作り出したのです。

これは拒否権より上の国家固有の権利であるということを打ち出して、ソ連が拒否権発動してもそれを蹴散らすためであったのです。

 

日本国憲法自衛権の問題はさすがに章立てして説明されています。

そもそも、ポツダム宣言にしたがって作成された日本国憲法には自衛権も書かれてはおらず、自衛権も含めて軍備は放棄されていました。それがアメリカを含む同盟国の意志であったわけです。

しかし、冷戦激化によるアメリカの国際情勢認識の変化でこの姿勢はまったく変わってしまいました。

1950年のマッカーサー年頭の辞で、彼は自衛権憲法が否定したとは言えないと言明しました。すると直後の国会で当時の吉田首相はそれに沿った演説をしています。

すでにこの時点から日米安保体制樹立に向けたアメリカの指示が出ており、それに対して日本政府の対応が始まっていることが分かります。

 

理論的にも現憲法自衛権を認めていると言えないことは明らかなのですが、それを変える憲法改正というものを目指す政権に対し、一つの基本的な問題点があります。

それは、日本国憲法制定時はポツダム宣言に従っていたのに、その当事国すべての了承なしに変えることができるかということです。

ポツダム宣言サンフランシスコ講和条約制定時に過去のものとなったという認識がありますが、実はポツダム宣言の当事者でサンフランシスコ講和条約を認めていない国があります。ソ連と中国です。

国際法上の正統性から言えば、この2者の承認を受けない限りは日本国憲法も変えられないことになります。

そうでなければポツダム宣言を破棄するに等しいこととなり、戦後の体制全ての否定になるわけです。

 

戦後体制を作り上げてきたアメリカと日本政府の行動の経緯など、極めて分かりやすい説明ですっきりと頭に入りました。

 

すっきり!わかる 集団的自衛権Q&A

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