著者の正高さんは「ケータイと持ったサル」などの著作で有名ですが、サルなどの霊長類研究が専門の比較行動学者です。
本書出版は2007年ですが、福岡や神戸でイジメを原因とした中高生の自殺が相次いでいたころですので、それを霊長類などとの比較で考えようという、出版企画があったのでしょうか。
まあ、「サルにはイジメはない」と言われてもあまり解決の足しにはならないようですが。
ヒト以外にはイジメはないと言っても、縄張りやメスをめぐって闘うことはどの種でも見られることで、そこには場合によっては生命に関わるほどの闘争が見られます。
そういった生存競争は、しかし別の動物には向けられることはなく、必ず同種の動物に限られるそうです。
そして、サルなどの群れを作って生きる動物の場合は序列決定の闘争というものもあります。
序列が上のサルは圧倒的な力を見せつけ、下位のサルは服従しますが、時々は序列変更の戦いもあるようです。しかし、慢性的に下位のサルをいじめるということはないようです。
イジメが起きるのは、ある集団の中での二者間のトラブルからです。
そして、その行為が常習化していくのですが、そこには必ず他のメンバーの態度が関わってきており、周囲が傍観していればイジメ行為がエスカレートします。
イジメ自体は世界中どこでも存在していますが、傍観者が増え続けるというのは日本で特に強く見られる事態のようです。
著者は、イジメの加害者被害者よりこの傍観者の生態を細かく記述しています。
核家族で専業主婦の家庭の子供に傍観者に廻る立場を取ることが多いのではということです。
また、ゲーム好きな子供に傍観者が多いのではとも。
父性不在がイジメを生むのかどうか。
イジメが起きたときに止めに入る子供は家庭でも親と良好な関係があるという指摘もあるそうです。
なお、ケータイをはじめとするIT化した社会というものは、かつてあった地域共同体を崩してしまい、そこでの社会が子供を見守る機能も失わせてしまいました。
かえってケータイを使ったイジメも激しくなっています。
イジメをめぐる報道も過熱し、かえって関係者をマスコミが「イジメている」としか考えられないような事態にもなっています。
巻末にポツンと置かれた言葉「イジメを克服するには”一人力”を養うことに尽きる」というのがやや唐突に感じますが、まあそれが一番効果的かもしれません。
ヒトはなぜヒトをいじめるのか―いじめの起源と芽生え (ブルーバックス)
- 作者: 正高信男
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/06/21
- メディア: 新書
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