著者のエモット氏はマイクロソフト・リサーチ計算科学研究所所長で、幅広い科学研究に知識が深いということです。
内容は題名そのまま、世界人口が100億人になったらどうなるか(もう70億ですのですぐ先ですが)ということです。その状況を一般向けに分かりやすく解説したものです。
この邦訳本は2013年の出版ということで、まださほど古くないこともあり、「エモット」と著者名でネット検索をすると数多くの書評ブログが書かれているのが分かります。
その書評の多くは「悲劇的な将来予測でショックを受けた」といったものですが、こちらはそれらの書評を見て少なからず衝撃を受けました。この本の程度の内容でしたら極めて普通の予測であり今更ショックを受けるものでもないと感じたからです。
一般人はこの程度の内容でも驚くのかと、それに驚きです。
内容の主たるところは、
食料供給ができなくなる。
水不足が悪化する。
気候変動がさらにひどくなる。
科学技術での問題解決は不可能。
といったところです。
なお、「オイルピーク」によるエネルギー供給不安は間違いだったというのが著者の意見ですが、ここは私自身の意見とはまったく異なるところです。
著者は、油田がブラジルや北極でどんどん発見されていること、そして例のシェールオイルの利用拡大もあり、エネルギー供給不安は無くなったとしていますが、これは間違いでしょう。
発見されている油田の埋蔵量は正確に報告されているとは言えませんが(過大報告、過小報告の両方の例があるが、過大が多いと考えられる)それを全てそのままに加算してもその発見量はどんどんと減少していっています。さらに発見量は現在の年間消費量に遥かに及びません。つまり原油存在量はどんどんと減っているのは事実です。
さらに、シェールオイルなどはすでにその正体を晒しているでしょう。コストがかかるというのは経済的なコスト以上にエネルギーの収支が合わないということです。
アメリカのシェール騒動は単なるロシアつぶしの政治的目的のものと考えています。
このように私とは意見の相違点はありますが、全体としては現在の地球人口を支えるのは極めて難しいということでは基本的に間違いない論旨であると感じます。
特に、最後の章でこのような危機を乗り切るために科学技術の力が発揮できるかどうかを述べていますが、現時点でのアイデアは5つあるとしています。
1 グリーンエネルギー (日本で言う再生可能エネルギーのことです)
2 原子力
3 海水の淡水化
4 地球工学(ジオエンジニアリング)
5 第二の緑の革命
グリーンエネルギーには多くの人が期待をかけているが、実用になるものはないというのは適切な見解でしょう。
海水淡水化というのは水不足に対する策として考えられていますが、それを為すだけのエネルギーは存在しません。
ジオエンジニアリングというのは、具体的には海に鉄くずを数十億トン撒布し二酸化炭素を吸収させるとか、宇宙に巨大な傘を取り付けて太陽熱を跳ね返すとか、大気中に人為的にエアロゾルをまいて太陽熱を反射させるといったものだそうです。二酸化炭素貯留技術もこの中に入ります。
一口で言って「夢物語」技術のようであり、人類の将来を託すことができるものはありません。
第二の緑の革命を考えるには、最初の「みどりの革命」を考えなければならないでしょう。
最初の緑の革命は化学肥料を使い収量増加を目指しました。それは一定の成果は得られましたが、病害虫の流行(それに対する農薬使用の増加)、水資源の大量使用などの弊害も招いてしまったので、完全な成功とはとても言えません。
まして、第二の革命などは成功の可能性はありません。
なすべきことは先進国が「消費を減らす」それも劇的に、ということだけです。
しかし、それができるはずもありません。
「子供を作らない」というのも必要な施策ですが、これもできるはずがありません。
著者は同僚の科学者に取るべき方策を尋ねたそうです。
彼の答えは「息子に銃の撃ち方を教える」だったそうです。