爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界がもし100億人になったなら」スティーブン・エモット著

著者はマイクロソフトリサーチ計算科学研究所所長で、他にも大学客員教授を務めているということです。さまざまな科学分野に関して活動しているということです。

本書の体裁は文章は少なくグラフや図表、写真が多く、学究的なものではなく一般の特に若年者向けの啓蒙書といったところです。
現在の地球の人口は70億人に迫ろうとしており、これが100億人になるという事態もすぐそこに来ているようです。しかし、100億人の人口を満たすだけの食糧、水、エネルギーが確保できるとは考えられず、またそうなった時の気温はさらに上昇し、また各種の病気も蔓延するだろうというのが本書の主張です。

食糧の供給が難しくなるというのがもっとも危険な問題でしょう。その要因として、農業用地の増加が難しいこと、そして農業用水が枯渇していくことが挙げられています。特に水は地下水を使い果たしているためにいずれは農業が困難な地域が増えるということです。また、気候の変化も重要ですが、あまり取り上げられていない問題点として、リン酸肥料の減少ということがあります。これは正しい認識でしょう。
結局、「緑の革命」といって農産物生産の増加ということが行われてきましたが、それは確固たる技術でなされたものではなく、無理な生産でありやがては根本的なところから崩れていくというところでしょうか。

温暖化を危険視し、その割にはエネルギー供給を心配していないと言う点では私の立場とは大きな差がある著者の主張ですが、このまま何もせず(これまでも何もできなかったとは著者の指摘です)に進むともうすぐ破滅的な結末になるだろうということです。実際にそうなるでしょうし、その時期も近いのではないかと思います。

著者は楽天的な人々が科学技術の進歩に期待を寄せることも間違いであると述べています。現在の証拠を見る限り、科学技術の進歩などというもので危機を乗り越えることはできないと言い切っています。おそらくそうでしょう。