爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ネガティブ・マインド なぜ”うつ”になる、どう予防する」坂本真士著

うつ病というものは多くの発生があり、社会的にも相当な損失となり自殺者の多くの原因となっていますが、これを扱うのは精神医学と臨床心理学が主となっています。
しかし、著者はそれを社会心理学という手法で長らく研究を重ねてきており、それを新書として一般的に解説をしたものです。

著者あとがきにもあるように、うつ病研究を進める上で一度は臨床心理士への道を進むことも考えたと言うことですが、やはり社会心理学からのネガティブマインド解析というものの研究を続けることが有益と考えてのことのようです。これは、医学で基礎医学臨床医学とがあり双方が補い合って高度な医学というものを作り上げているのに、心理学では一応基礎心理学と臨床心理学と言う名前のものはあるものの、基礎心理学というものが決して臨床心理学の基礎とはなっていないと言うのが現状であり、それを何とか変えていかなければならないという事情からだそうです。

そのためか、うつ病になるような心理状態というネガティブ・マインドというものをあくまでも心理学的な分析から解析していくという方向で語られていますが、少々むずかしい内容になっており、なかなか理解しづらいものでした。

本書構成は、うつ病とネガティブ・マインドというものが密接に関係しているということの解説から、さらに大きな要素としてある「自己注目」というものについて語られています。ネガティブ・マインドになる人の性質として、あまりにも自己というものについて考えすぎると言う傾向が強いと言うことです。ポジティブな人はあまり自分のことにはこだわらないということなのでしょう。
ここで著者は良く知られている「巨人の星」の主人公の星飛雄馬について語っていますが、その描写はここで取り上げている「自己注目」が強いと言う性格そのものであったそうです。うつ病一歩手前だったのでしょうか。
さらに、ネガティブマインドの仕組みというものについて、そしてネガティブマインドを調節する方法について記されていますが、ネガティブマインドの調節というものはまさに「うつ病」発症の予防となる方法と言えます。

ただし、ネガティブマインドというものは決してすべて否定され、治療されなければならないと言うものではないようです。
進化と言うものを考える時、ネガティブマインドという傾向の強い個体は不適合であったかというとどうもそうではなく、かなり有利だったとも考えられるそうです。大胆で不安を感じにくいという個体はかえって外敵に襲われ命を落とすと言うことが多かったと考えられるので、失敗すると消極的になり閉じこもると言う方が生き残ったとも考えられるとか。
また、ネガティブマインドすなわち自己を見つめなおすということの多い性格というものは多くのメリットも持っているのは当然であり、程度によっては優れた性質とも言えるようです。

しかし自殺にまで進んでしまうと言うことは大問題であり、何らかの助けが必要なのですがなかなか難しい問題のようです。
うつ病に関しては前記のように精神医学や臨床心理学からのアプローチがされているとは思いますが、本書のような取り組み方というのも有効な方法なのかもしれません。