爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「第3のビールはなぜビールの味がするのか?」夏目幸明著

著者は工業に関する著述を得意とするライターのようで、ヒット商品開発秘話といったものを書いているようですが、本書ではいわゆる「第3のビール」の開発から製造について、ビール各社に取材してきちんとまとめられているものです。

実は私はビールではないのですが以前には酒の製造会社に勤めていましたので、ビールの開発といった話題には非常に興味を持っていました。会社時代には酒税の管理にはつくづく悩まされましたので、酒税というものが作り出したとも言える発泡酒や第3のビールといったものはかなり苦労をしているのだろうと感じていました。

本書は「そもそもビールとは」といったところから記述されており、酒類の製造には詳しくないほとんどの人にも非常に分かりやすく解説されています。
発芽した麦を粉砕して糖化液を作り出すという、日本の酒とはまったく異なる方式でデンプン糖化を行うビールですが、やはり麦芽では日本の麹と同様に苦労があるのではないかと思っていました。
やはりその通りのようで、発芽させるためには精麦から浸水という工程が必要ですが、そのあたりの匙加減でできたビールの味が変わってきてしまうようです。
糖化した麦汁をろ過するとすぐにホップを加えてから煮沸するのですが、ホップはすでに紀元前から加えられておりその歴史も相当長いようです。ホップにもたくさんの品種がありそれによって味も変わってくるとか。

発泡酒を生むきっかけともなったのが、やはりアサヒのスーパードライだったようです。それまでのキリンラガーの時代とは異なりコク重視よりは「キレ」重視というスーパードライはビールのスタイルを変えてしまいました。
実はその製造は原料にスターチを加えることで麦芽由来の重たさを減らしたのですが、それでは麦芽をさらに減らして当時のビール規格の「麦芽67%以上」というのも割っても良いのではというのが発泡酒のスタートだったようです。そしてそのことによってビールにかけられている重税も回避できるというのがポイントでした。
そうして1994年にサントリーから初めての発泡酒「ホップス」が発売されました。酒税が1本あたりビールの77円から53円に下げられるので販売価格も安くでき、大ヒットとなりました。
しかし、政府はすぐに酒税の改定を行ない、発泡酒の税率を上げました。そこでその範囲もかいくぐろうと、さらに麦芽比率を下げて25%以下とした「スーパーホップス」を発売ということになりました。

それでも一応麦芽が少しは含まれていたのですが、さらに酒税対策として麦芽をまったく含まない第3のビールへと進化していくことになったのです。麦芽を含まないと酵母の発酵の栄養になる窒素源が不足するので上手く行かないのですが、それをエンドウタンパクや大豆タンパクを加えることでクリアしたのがビール各社の技術陣でした。

しかし、2006年になりその「第3のビール」の酒税も上げられてしまいました。そこでいわゆる新ジャンルという、リキュール規格のものを市場に投入するということになってしまいました。ここに来ると発酵もさせずにアルコールと調味液を混ぜるだけです。一方、その調味液に麦芽由来を用いることもできるので味は複雑にできるという要素もあるようです。

実は他の酒の種類でも酒税のからむ開発競争がたくさんあるのですが、これらもみな日本の税制の厳しさにあるようです。国際的に見れば異様なものでしょう。