爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本の”行事”と”食”のしきたり」新谷尚紀監修

日本に限らずどこの国でもさまざまな行事にはそれに特有な食というものが付き物ということはあるのでしょうが、食物というものの多様性が多いと考えられる日本というところはその結び付きが特に強いということはあるのかもしれません。
各種の年中行事、また人生の随所での行事、そして地域特有のものなど、さまざまな行事に特有の食というものを取り上げたもので、監修者の新谷さんは社会学博士で国立歴史民族博物館教授という方ですが、協力者として多数の研究者が執筆したのでしょうか。

年中行事にともなう食というものは、正月、七夕、月見といった行事を思い浮かべると必ずそれに食の思い出があるものです。正月といえば餅や屠蘇、七夕には素麺、月見は団子といったものですが、これも地域により差があるのはよく話題に登るところです。
正月の雑煮が関東では澄まし汁、関西では味噌仕立てということは有名ですが、すでに江戸時代にはその習慣が固まっていたらしく、文献にも互いに珍しがるという記述があるそうです。また、入れる餅が角餅か丸餅かというのも歴史が古そうです。
なお、日本各地と言っても沖縄には雑煮の習慣はないとか。また、餅を入れないところもあるようで、北関東から東北には餅ではなくイモ類を入れるそうです。

新嘗祭というものがあり、米の収穫を感謝する祭ですが、本書にはそれに関連して奥能登の「アエノコト」が取り上げられています。これは各家で田の神をもてなすという儀式ですが、依然に金沢に一時住んでいたことがあり毎年地方ニュースでその話題が流されていたのを思い出します。

人生の各段階での儀式と食の関連ということも本書には取り上げられており、お食い初めの習慣、雛祭りの貝汁、結婚の時の祝いの食など、各地の風習や歴史的な謂れなど記されています。

各地域の食については、伝統食と並んで新しい食も描かれており、伝統食では山梨の「ほうとう」栃木の「しもつかれ」長野の「おやき」など取り上げられていますが、「ほうとう」が武田信玄と結びつけて語られだしたのは最近のことで、元々はそれ以前から米の少なさをカバーするものとして広く食べられていたものだそうです。栃木の「しもつかれ」も変わった食として有名ですがその歴史はかなり古く、鎌倉時代の文献にもその名が残っているとか。
関東のそば、関西のうどんとはよく言われますが、その発生はうどんの方が早くそばは各地では食べられていたものの広くそば切りが広まったのは江戸時代になってからだそうです。

最近の地方名物は多いのですが、仙台の牛タン、宇都宮の餃子などはある程度その発祥から普及の努力まで分かっていることも多く、他の参考になっているようです。
たこ焼き、お好み焼き、辛子明太子なども今では広く普及していますが、戦後になってから広まりだしたもので、食の多様化と経済成長でいろいろな食物が発展してきたことが分かります。

なかなかの労作で、細かいところまで書かれていて資料価値も高いと見えます。