「こなもの」と言えば、お好み焼きやたこ焼といった関西イメージの強い食品群で、その意味では「コナモン」と呼ぶ方がふさわしいようにも感じます。
しかし、この本ではそういった小麦粉で作る食品だけでなく、米やサツマイモ、アワ、ヒエなども対象とし、伝統的な日本の食文化の中で伝わってきた「こなもの食文化」を紹介しています。
第1部として「こなもの」全般に関する概説を、そして第2部で地方別に「こなもの」の食品を紹介しています。
それらは非常に詳細なもので、各都道府県の中でも地域ごとに異なる食品まで及んでいます。
穀物(一部イモ類や豆類も含む)の食用方法としては「粉食」と「粒食」の区分があります。
日本は米については粒のまま炊くという「粒食」の伝統が強いようですが、それでも米でも欠けてしまったくず米、畑で作られるヒエ、アワ、キビなど、そして江戸期以降救荒作物として重要な役割を持ったサツマイモなどのものは粉に挽いて食べる「粉食」の習慣も強いものでした。
本書ではそのような食品の中から、餅・せんべい、うどん・ソバなど麺類、饅頭など菓子類、お好み焼き・お焼き・たこ焼きなどを取り上げています。
なお、他文化圏では重要なパン類は、一部の菓子類を除いては扱っていません。
都道府県別の記述が中心となりますが、非常に詳細なもので、例として熊本県を見ても地元でも有名なものが記載されている一方、ほとんど地域的に限られたものまで触れられています。
(天草の”彼岸だご”、人吉の”味噌饅頭”など)
他の都道府県については、あまり知識もありませんがおそらく同様なのでしょう。
なお、「新しい伝統」とも言うべき「B級グルメ」もその多くが「こなもの」なのですが、若干の記述はあります。
しかし、こちらは商業的な思惑もあり、また頻繁なはやりすたりもあるためか、深くは洞察できないのもやむを得ないでしょう。
非常に細かい記述が相次ぐためか、少しですが「記述の誤り」や「校正モレ」があるようで残念です。
P.85 山形県の郷土料理「かいもち」の紹介のところで「山形県天竜市の郷土料理」はないでしょう。
「天竜市」はかつて静岡県にあった市で、山形県にあるのは「天童市」です。
P.243 熊本県の地勢の紹介で、「西部は島原湾、八代湾に面し」とありますが、「八代湾」という言い方はしません。
「八代海」です。
なお、「島原湾」という言い方も地図には記載されている例がありますが、地元では通常は「有明海」と呼び、「島原湾」と言うことはありません。
このような記述は他の地方にもあるのかもしれません。
また、校正モレではありませんが、「五平餅」(これを”こなもの”に入れるのはちょっと疑問ですが)の記載が長野県の項には無く、岐阜県の項にだけ記述されており、その中に「岐阜県ばかりでなく長野県にもある」と付け加えられるだけになっているのは、長野県人にとってはかなり気になるところでしょう。
「五平餅は長野が本場じゃい」と言いたいところです。
まあいくつかのミスはあるようですが、なかなかの労作で参考になるところが多いと感じます。