爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「マスコミが絶対に伝えない”原発ゼロ”の真実」三橋貴明著

三橋さんは最近大売れの経済評論家で、著作は多数、またネットでも大活躍のようです。かなり刺激的な表題のものを目にします。
本書は題名からも分かるように、脱原発を目指す人々を徹底的に論駁しています。

その論拠は、現在の原発停止の状況では電気料金が高騰しさらに上がる一方であるということ、またいわゆる自然エネルギーなどというものは現状では全く役に立たず今後の見通しもないこと、放射能の害なども現在の福島の状況は過大に言われており実際はそこまでひどくはないということ等々で、その一つ一つは極めて正確であると言えます。
ただし、その最後の結論に至るところで、「本当に大丈夫なの」と疑問を抱かせるところがありすんなりと納得できるものではありません。

本書は非常に丁寧なデータに基づいた主張がされており、その点については異論がないのですが、その表現はやや激しすぎるようです。原発停止を提唱し都知事選挙に立候補した細川氏を批判していますが、原発ゼロを成し遂げるために経済成長も止めると語った細川氏を「おぞましい」と片付けています。また細川氏を応援した小泉元首相も「実はそれで私的な利益を得るのではないかと邪推してしまう」などと述べています。こういった点はちょっとついていけない気がします。

原発を停止している現状でも電力がなんとか供給できているので無くても大丈夫という感覚がありますが、これは著者も指摘しているように老朽化した石油火力発電所をむりやり動かしてなんとか保っているだけで非常に危険な状態であることは間違いありません。またLNGの需要が高まることで価格が高騰しさらの電力会社の経営が悪化していることも事実です。
自然エネルギーなるものの実用性は現在ほとんど無く、増えれば増えるほどそのバックアップとして不要な火力発電の運転が必要となることも間違いないところです。そして将来もその実用性が増すことは有得ません。唯一可能性があるのは蓄電池により平準化することですが、それは著者の指摘するように(資源が間に合うとしても)100兆円もの費用がかかるようです。

また、福島の原発事故による放射線の影響についても現在はあまり科学的な議論がされず(しようとしてもできない)安全側に偏った議論ばかりがされているということも、かなり正確に主張されています。こういったところは相当有能なスタッフの方を何人も抱えているのではと想像できます。それはともかく、適切な対応をすれば現在のような広範囲の避難区域も縮小できるというのは確かでしょう。

FIT(再生可能エネルギー固定価格買取制度)についても「悪夢のFIT」とこれもやや過激な表現ではありますが、この場合は「適当な」批判をされています。著者が非常に適切に指摘されているように、この制度はFIT推進の筆頭であったソフトバンク孫正義社長が言ったとおりにできた制度であり、レントシーキングそのものといえます。すでにあちこちにほころびが出始めていますが、いずれ破綻するでしょう。

アメリカのシェールガスについても、多くのシェールガス田では産出を始めて3年後には産出量が激減することが分かった(なんと75%の減少)という、これまた極めて正確な情報を持たれています。シェールガスビジネスに参入しようとした企業も多くは撤退や見直しを始めているということで、「シェールガス革命」などというものは幻想(というよりは詐欺)だったということでしょう。

これらのような極めて正確な情報に基づいて組み立てていった議論ですが、その結果「原発運転」に至るというのは、著者が経済評論家で経済の専門家であるからでしょう。それでも原発が怖ければ経済が縮小しても仕方がないという考え方のできない人だからです。細川氏を罵倒したほどですから、それを受け入れるという可能性は全くないのでしょうが、いずれはそうせざるを得ないと考えるのですがいかがでしょうか。