爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ビジネス書の9割はゴーストライター」吉田典史著

ゴーストライターというと、芸能人やスポーツ選手が書いたと言う本を実際に書いている人というイメージでしたが、いわゆるビジネス書というジャンルの本でもほとんどが著者は名前ばかりでゴーストライターが書いているというのはあまり認識していませんでした。

著者の吉田さんはジャーナリストとしても文を書く傍ら、かなりの数のビジネス書のゴーストライターを務めてきたそうです。その経験から言って、このジャンルの著作物でも著者とされている人が書いたものはほとんどないと断言しています。
タレント本などと言うものが本人が書いていないというのは、誰もが納得できるでしょうが、いっぱしの有名企業経営者などが自分では書いていないというのも驚きですが、実際はそのような人々でもその書く文章はほとんど物になっていないそうですし、さらに本の構成を考えるなどということは専門の文筆家でも難しいことで、構成表作成などといっても理解できる人は少ないそうです。
さらに、有名な文筆家でも高齢になってくると自分で書くことができなくなり、その場合はゴーストライターとは呼ばず執筆協力などという形で実際は代わって書くという人もいるとか。

ゴーストライターとして活動している人が何人くらいいるのか、数字はまったくつかめないようですが、それは長く活動できる人がほとんどなく、入れ替わりが激しいためだそうです。かなりの時間がかかる一方、一本当たりの印税もわずかなために年収がせいぜい200から300万円程度の人がほとんどで、一家を構えた人が暮らしていくにはあまりにも少なく、20-30代の独身者が多いようですがそのうちに見切りをつけてやめていくようです。
また、最近は100万から200万円程度の年収でも良いと言った主婦のパート的なライターもいるとか。

このような実態と言うのは、それを上手く利用してきた出版社側の事情が大きく影響をしているようです。書籍の売り上げがどんどんと落ちていく中で、ある程度のファンが付いている人気経営者というのが確かに存在しており、その人々の名前を冠した本を出版することである程度の売り上げが期待できるということですが、それらの人々に本を書く能力はほとんどないのが普通だそうです。時間がないからとか言う人が多いようですが、ライターの書いた原稿に手を入れさせるとかえってぐちゃぐちゃに崩れてしまうこともあるようで、文章能力がないのでしょう。
しかし、その名前だけで本の商品能力があるのですから、出版社側の厚遇ぶりもひどいもので、印税は普通は本の価格の1割ですが、その内の7割を名前だけの著者に払い3割がゴーストライターということが多いとか。半々の取り分というのはめったに見られないことだそうです。ひどい人になると9:1とか8:2などと言うこともあるようです。

また、名前だけ著者の勝手気ままに振り回され、何時までたっても原稿が戻ってこないために出版できず、ライター側に原稿料支払いができないといったトラブルも頻発だそうですが、この辺は出版社側のきちんとした対応が無ければいけないと言うことです。

著者は、きちんとしたライターの権限保持のためにはやはり出版物に実際の執筆者の名前を入れ、著作権も持たせるべきだということですが、名前だけ著者のイメージを使いたい出版社側からはなかなか賛同されないようです。

なお、このようなビジネス書を書くといった経営者はだいたい大会社の経営者ではなく売り出し中の中小企業の経営者だそうです。その本を何千部も買い取りといった条件をつけることもあるために出版社は強い姿勢が取れませんが、経営者もその本を会社の商売に使う場合も多く、また新入社員の獲得に使う場合もあるようで、このような本を書く経営者の会社なら大丈夫だろうと思って入社をして入ってからがっかりする若者もいるようです。

このような実態である出版界が衰退しているのは、必ずしも電子出版のせいだけではないようです。