爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「奇貨居くべし 春風篇」宮城谷昌光著

中国の戦国時代、秦で宰相として権力の座についた呂不韋の物語です。
秦の始皇帝の父親、荘襄王が人質として他国で苦しんでいたのを見出し、「奇貨おくべし」と言ってその援助をしさらに王の後継者となれるように尽力して成功し、その王子の始皇帝も実は呂の子供であったのではないかとさえ言われていますが、呂不韋は大商人であったと言われてはいますが当然のことながら来歴はほとんど知られていません。

そこを著者は多くの資料を駆使し、さらに大きな想像力で肉付けしていきます。

呂氏は西周時代にも「呂」という国があったといいますが、その末裔かも知れません。しかしその頃は韓の国で商人をしていたということにしてあります。その子供として生まれながらも、本妻とは違う妾の子供で引き取られたので邪魔者扱いをされ、家を離れるというストーリーは史実ではないかもしれませんが、無理のない作りでしょう。

その旅の途中でなんと、和氏の璧に遭遇してしまいます。和氏の璧に関しては司馬遷史記にも取り上げられている有名な宝玉で、これをめぐり趙の国の藺相如(りんしょうじょ)が一世一代の名を挙げるのですが、不韋はその藺の客として迎えられ、秦への璧献上の旅にも同行するという驚きの構成です。

秦王が和氏の壁の代償として趙に15城を与えると言ったと言うのは史記にも残っておりますが、本心はまったくその気も無く使者一行を殺して奪うつもりだったようですが、藺相如の勇気と知恵で乗り越えて壁を無傷で持ち帰るという話ですが、史実でも従者の一人に持たせてひそかに脱出させるということになっているその従者が呂不韋少年であったという、驚きの構成です。しかし、その後の波乱万丈の物語もつじつまの合うようになっているようで、著者の力量に恐れ入るという具合になりそうです。

本作は全5巻のシリーズなのですが、篇名がナンバーが入っておらず、次が何篇なのかよくよく見なければ分かりません。いつもの市立図書館に揃っているのか不安です。