爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ヘイトスピーチとは何か」師岡康子著

人権専門の弁護士の師岡さんがヘイトスピーチに関する諸々の状況を解説されたものです。
ヘイトスピーチ」というと在日朝鮮人学校などに押しかけて大声で悪口を連呼するというイメージですが、あまり報道もされないことから実体がもう一つ実感できない状態です。
しかし、どうやらかなり蔓延しており、さらに欧米メディアの目を引くことからそちらでの報道もされるために日本のイメージ悪化にもつながっているようです。

ヘイトスピーチの定義とは、人種や国籍、性などの何らかの属性を持つマイノリティ(少数派)に対してその属性をもとに差別的表現をすることということです。
この辺の事情が微妙に影響し、たとえばマイノリティ側がマジョリティを人種的に批判したことまで法的に規制したという事例がアメリカなどでは起こりましたが、これは恣意的に混乱させて人種差別を利した例かもしれません。

人権尊重という面では人種だけにとどまらず様々な問題があるのですが、特に第二次大戦前のユダヤ人の大虐殺などが発生し、それに衝撃を受けた国際社会は戦後に国連などの場でそれらの問題に対する対策を模索してきました。
そのような動きの中から人種差別撤廃条約が採択され、さらに他の人権関連の国際条約も結ばれてきています。
しかし、日本では条約参加というポーズだけは示すもののそれらに対する国内法整備はまったく進められず、実質的に無視している状態が続いているそうです。

マイノリティーに対する直接の犯罪行為というのを野放しにしている社会はすでにほとんど無いでしょうが、暴力までは至らないようなヘイトスピーチというものをどのように扱うかということは国によって大きな差があります。
ヨーロッパ各国は法規制まで実施している例が多いようです。ドイツではナチを賛美する言動などを禁止するのも法律としていますし、差別禁止法というものも作られているようです。
アメリカでは法律化への抵抗が強いようでそこまではできていないということです。

日本でも法規制には慎重論が強くほとんど進んでいない状況です。現行法で対応できるとか、法律規制すると政府の拡大解釈につながるとかいった理屈が付けられますが、どれもちょっと問題です。
それでなくても政府の有力者や政党代表などといった人々からヘイトスピーチと言える様な発言が頻発する国柄です。規制などできるはずもないでしょう。