「失敗学」の方が有名な畑村さんですが、一般の人々に数学的な考え方をしてもらうということにも意欲を持っていらっしゃるということです。
以前に「直感で分かる数学」という本を出版されたのですが、これは「ヨコ書き」の本でした。
「ヨコ書き」本は一般人にとってはどうしても数理関係の教科書といったイメージを持たれやすく、そのためもあってかほとんど売れなかったそうです。
そこで、この本は岩波新書から、「タテ書き」本として出版し、できるだけ普通の人にも読んでもらいたいという思いを込めて書かれたそうです。
普通の人は数学的な考え方をできる人を「数字に強い」と呼ぶことが多いようですが、畑村さんはそれだけではなく、「数に強い」考え方ができなければならないと言います。
単に暗算や数式が素早くできるだけのイメージの強い「数字に強い」にとどまらず、本当の意味で数学的な考え方ができる人が増えてくれることを願っているようです。
「数(かず)」とは何か、分かっているようであまり分かっている人はいないようです。
数とは
・物事の数量的な属性を記述し表現するもの
・種類、狭い意味での数、単位を構成要素とする。
・”数を作る”という動作を含む
という概念のものだと考えています。
”数を作る”というのは少しわかりにくい表現かもしれません。
著者が技術分野で大学の医学部教授連中と共同の研究をしたそうですが、お医者さんたちはあまり数値にこだわる表現をしない(できない)そうで、工学系の技術者とはまったく最初は話が合わなかったそうです。
この「数値に還元して表現する」ということを「数を作る」という言葉で表しています。
こういった「数に強くなる」ためにやるべきことをまとめたのがこの本の内容なのですが、そのためには
数の感覚を磨くこと(ゼロの個数をまる覚えしてしまう、ざっくりのススメ、ドンブリのススメ等々)
数の声を聞く(ぜんぶ”一人あたり”で考える、1000を聞いて1を知る)
数を使う(1駅2分の法則、自己評価は2割増しの法則、大入り満員7掛けの法則など)
ということです。
極めて単純化し覚えやすくしようと努力されています。
1000を聞いて1を知るというのは、音の周波数などに現れるもので、対数として認識しているのではないかということです。
これには思い当たることもありますが、面白い指摘でしょう。
他にも味覚、触覚、嗅覚など感覚はどうやら対数的に成り立っているのではないかということです。
大入り満員7掛けというのは、講演会などで7割くらい入場するとちょうど満員という感覚だそうです。
欲張って定員一杯の入場者を見込むと、席が空いていても立ち見が出るなど大変なことになります。
なお、ドタキャン1割の法則というのもあり、何らかの会合であとに懇親会も付けるということをすると、大抵は1割は懇親会に出ないということです。思い当たる人も多いのでは。
数字に弱いという人がこの本を読んで強くなれるかどうかは分かりません。そうしたいという畑村さんの意欲だけは感じられました。