爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「異常気象の正体」ジョン・D・コックス著

気候変動というものが二酸化炭素温暖化仮説によるように緩慢な温度上昇が起こるというものではなく、急激なものであるということはこれまでも「気候変動を理学する」といった本でも読んでいたことですが、

「気候変動を理学する」多田隆二著 - 爽風上々のブログ

本書はそのような急激な気候変化、異常気象とも言えるものですが、その存在自体がどのようにして知られるようになってきたかと言う科学史を紹介するものとなっています。

著者は科学ジャーナリストですが、研究にも携わるという人で、科学の隅々まで非常に詳しいことが分かります。日本でほとんど「科学ジャーナリスト」というものが育たないことと比べるとその充実ぶりはうらやましいものです。

 

気候と言うものは安定しており変わるとしても徐々に起こるということは長らく人々の常識となってきました。しかし、本書に主に扱われているグリーンランドや南極においての厚い氷の層から何千メートルにも及ぶ氷柱を採取しての研究において古い時代の気候と言うものが明らかになるにつれ、気候変化は急激に、時によってはほんの数年のうちにジャンプするかのように起きるということが知られるようになってきました。

 

極寒の地で数千メートルにわたって積み重なった氷の層をボーリングして氷柱を取り出すということは、実に1930年代という昔から試みられてきました。しかしそこで生活することすら危険であった時代であり犠牲者も多く出たようです。またボーリング装置も貧弱であり氷を破壊せずに取り出すということも難しく長らくまともなサンプルも取れませんでした。

さらに研究資金を確保することも困難で対ソの軍事に絡めて軍部から金を引き出すと言った苦労も重ねられたそうです。

ただ、先駆者の大きな努力で得られた成果なんですがその描写があまりにも長く、途中で読むのが嫌になるというのが本音でした。

 

しかし、それで得られた成果は膨大なもので1990年代になるとそれまでは何千年もかけて徐々に起きたと考えられていた気候変化が実は10年未満で起きたということが分かってきました。

気候の変化は「原因よりも速く変化してきた」ものだそうです。

 

ただし、本書ではその原因については明記はされていません。まだ研究を重ねなければそれは解明されないということです。

一番可能性が大きいのは熱塩循環という現象で海水の塩分濃度の分布の変化が起きそれにより海流の流れが変わるのではと言うことです。

 

これだけ証拠が出そろってきてもまだコンピュータモデルでなだらかな曲線で温度上昇をするという温暖化説を唱える人も多くいます。そのようなのどかな気候変化ではなく、急激な気候変化の危険性というものを理解すべきでしょう。

その引き金になるのが何かと言うこともまだ分かっていません。もしかしたら二酸化炭素濃度の上昇と言うものがそれにつながるかもしれません。これまでの急激な気候変化は別の原因であったとしても、次の変化がそのせいであるかもわからないようです。しかし可能性は捨てきれないということでしょうか。

 

この8000年の気候というものは例外的に安定した気候だったと言えるようです。(それでも結構温度変化はあったようですが)

それがあっという間に崩れるということもありそうです。それもすぐ近い将来にあるのかもしれません。