中国古典に基づく小説を多数書いてきた宮城谷さんですが、この「青雲はるかに」では戦国時代に秦の宰相となって活躍した范雎(ハンショ)を取り上げます。
范雎は春秋時代の晋の国で宰相を務めた士会の子孫ですが、戦国時代末期のその頃には零落しており学問だけを基に立身出世を目指します。
しかしその頃には遊説をして出世を目指す人間は巷にあふれており、なかなか相手にされません。
この上巻ではその范雎の青年時代を描きます。
范雎は魏の国に生まれましたが、家は貧しくしかも三男のため伝手を頼って仕官するわけにもいかず、勉学で身を立てようとします。
父が亡くなりわずかながら遺産を得たので、魏の国の都大粱に出て刑名学を学ぶのですが、大した金もなければそれほど有名な学者につくこともできず、三流の教場で学ばなければなりませんでした。
周囲も勉学に励むような者もおらず、范雎は浮いた存在となります。
その中で鄭安平という者だけは范雎の気持ちを汲み親友となります。
范雎は諸国を巡り遊説を試みますが、ほとんど相手にもされませんでした。
しかし斉の国の莒の町で門番の比伝と知り合ったことがその後の運命に影響します。
遊説に失敗した范雎は魏に戻りますが、そこで鄭安平の妹鄭季を知ります。
彼女は一度結婚したのですが、そこで虐待を受けて足を悪くしまともに歩けないほどになっていました。
しかし丁寧に温めて治療すれば歩けるほどに回復すると見た范雎はそれに自分の人生も賭けます。
知り合いの薬売りに治療薬を売ってくれるよう頼み、高価なその薬の支払いのために魏の国の高官魏斉のさらに配下の須賀に仕えることとなります。
そして須賀に従い斉の国への使いの従者として赴きます。
ところが斉の国で比伝を訪ねるとすでに取り立てられて斉王の側近となっていました。
比伝に推挙され斉王に直接謁見し気に入られます。
しかしまだ須賀の配下として旅行中の身であるために一度魏に戻ってからということにします。
斉王はそのしるしとして金を范雎に贈りますがそれを須賀など上司が曲解し、これは范雎が魏の秘密を斉に漏らしたための報酬だと思われます。
魏に戻った范雎は魏斉によって鞭打たれ殺されるところでした。
しかし何とか係のものに頼み込み、死人となったことにして逃がしてもらいます。
魏斉や須賀は執念深く范雎を追い殺そうとしますが、かつて范雎がわずかな縁で知り合った女性たちにかくまわれ危ういところで逃れることができました。
しかし魏の国の中で潜伏しているだけではいつまでも危険なままであるため、なんとか脱出しようとしているのですが、秦が魏を攻めてきたために城門は閉ざされたままというところで上巻の終わりです。
それにしても、宮城谷さんの小説ではその傾向が強いのですが、主人公が女性にもてること。
この小説でも范雎は次々と美しく位も高い女性に愛されます。
ちょっとその点では感情移入がしにくいものになっています。