爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「きみに脳はなぜ『愚かな選択』をしてしまうのか 〈意思決定の進化論〉」ダグラス・T・ケンリック、ヴラダス・グリスケヴィシウス著

人は色々な局面で選択をしますが、その多くは「愚かな間違い」

なんでそんなことをしてしまうのか。

そこには人類進化の過程で身に着けてきた意思決定の機構が関わってきます。

そういったことを取り扱っているのが行動経済学の研究者ですが、本書著者のお二人は社会心理学者で、「進化心理学」という分野からそれを見ていきます。

 

人間の心理の中には「下位自己」というものがあります。

それは動物として進化してきた中で数々の問題に対処するために鍛えられた脳の機能なのですが、それが時と場合によって異なる働きをしてしまい、そしてそれが時には相反することもあるので困ったことになります。

 

その下位自己は何人いるか。

それは進化上我らに降りかかってきた課題によって決まってきます。

その課題とは、1,身体への危害を逃れる、2,病気を避ける、3,友人をつくる、4,地位を得る、5,異性の気を引き付ける、6,その異性を手放さない、7,家族の世話をする の7つに大きく分けられます。

したがて、下位自己というのも7人いることになります。

それが、自己防衛、病気回復、協力関係、地位、配偶者獲得、配偶者保持、親族養育です。

これらは人が生まれた時からすべてを備えているわけではなく、成長段階を上がるにつれて現れ、強まり、交代していきます。

つまり、乳児の頃から現れるのが自己防衛、そして幼児期には病気を避けるための病気回復、さらに幼稚園に行けば友達を作る協力関係、さらに学校に行きだすとその中で地位を争うことになります。

さらに思春期になるとホルモン急上昇に伴い配偶者獲得にスイッチが入ります。

それで獲得してしまうと配偶者保持、さらにそれから子供が生まれると親族養育に移り変わります。

こういった下位自己はうまい時期に上手く入れ替わってくれれば良いのですが、いつまでも配偶者獲得にスイッチが入りっぱなしという人もしばしば居ます。

 

下位自己は誰でも意識の奥に持っているのですが、それが抑えられずに飛び出してくると多重人格障害などと呼ばれる状況になることもあります。

マーティン・ルーサー・キング・ジュニアは黒人の権利獲得のために働き人々に多くの影響を与えたのですが、それと同時に女癖が悪すぎたことも知られていました。

これを多重人格障害ともいえるのですが、誰でも持っているとも見ることができます。

 

配偶者獲得のための行動は、男女で大きな差があります。

男の場合は自らの能力、金や力、地位などを見せびらかそうとする方向に走ります。

女性のいる場では無鉄砲な行動をしがちだというのもその例と言えます。

そのためにこの世代の男性は事故での死亡率が非常に高くなります。

また贅沢品の購入というのも顕著で、女性の目があると思うと浪費しがちです。

金色のポルシェを買うことで財力を見せびらかしたいと考える人もいました。

そして逆にトヨタプリウスを買うことで環境を考えているということを見せびらかすという方向に向かう人も増えてきました。

どちらも当人たちは違う動機だと言い張りますが、その奥にあるのは同じです。

 

なお、女性の場合はそのような財力や権力の誇示という方向ではなく、「自らの美貌」に投資するのが顕著なようです。

 

非常に面白い内容ですが、面白過ぎて信じてしまうのも危険かもしれません。