人類文明の始まりは石器などだったのかもしれませんが、ごく初期から金属の利用を始め、現在は各種金属が身の回りにあふれているようです。
そういった金属が「世界史を変えた」ということで、歴史に沿って金属との関りをたどっていきます。
なお、著者の田中和明さんは製鉄会社に勤務の後、定年退職後は金属部門の技術士をされているという専門家です。
それでも文章の端々にユーモアも感じられるという、読みやすい本となっています。
本は時代ごとに分けて書かれており、金属種ではわかれていません。
鉄だけをたどるというには少し不便かもしれませんが、金属の歴史全般に目を通すには良い構成でしょう。
最初は宇宙の誕生から地球の誕生、そして金属元素の誕生というところから始まります。
鉄や銅の元素としては存在していても、それが人類が利用可能となるためには鉄鉱石、銅鉱石とならなければならなかったのですが、それに生物の働きがあったということは知りませんでした。
太古の炭酸の海に溶け込んでいた鉄イオンはシアノバクテリアの作り出した酸素と結合して酸化鉄となりそれが沈殿して初めて鉄鉱石となったそうです。
銅鉱石はそれとは異なりマグマの上昇で海水と接触し蒸気となり岩石中の硫化物を溶かしだして海水中に溶け込みそれが再度沈殿して鉱石となったそうです。
人類が最初に出会った金属は銅と青銅でした。
銅鉱石は色が鮮やかで見つけやすいもので、さらに燃やした木炭にその鉱石を入れるだけで容易に銅を金属として得ることができました。
しかし柔らかすぎるために道具として使うには不都合でしたが、錫と銅を混ぜて加熱するだけで青銅(ブロンズ)ができるためそちらの利用が進みました。
青銅器が使われたのはBC4000年頃のメソポタミア、エジプト、中国、インダス川流域でしたが、その地域では銅は取れても錫鉱石は取れません。
その時代から交易がおこなわれ離れた地域から運ばれたようです。
しかし鉄が使われるようになると各地で青銅器から鉄器に代わっていきました。
溶解や精錬に技術が必要でしたが、強度に優れた鉄器は瞬く間に青銅器を葬り去りました。
日本でも銅鐸・銅矛という青銅器が栄えたのですが、ほぼ同時期にすべて地中に埋められてしまいました。
その理由は分かっていません。
金属は様々な用途に使われてきましたが、中でも最も使用されたのが武器に関連するものです。
鉄の歴史というものは大砲の歴史と重なります。
15世紀には火薬を破裂させ砲弾を飛ばす大砲の構造はほぼ固まりました。
ただし、火薬の威力が強くなっていくと当時の錬鉄や鋳鉄では大砲の砲身として強度が足らず、徐々に鉄製から青銅製に代わってしまいました。
ナポレオンが活躍したころの大砲は青銅製でした。
それが再び鉄製に戻るのは1871年にプロイセンがフランスを圧倒した普仏戦争の結果で、プロイセンのクルップが作った鋳鋼砲により青銅砲のフランスを打ち破ったからだそうです。
近代以降になると金属の開発研究は急速に進みます。
この本の時代区分も最初の頃は100年、200年おきなのですが、19世紀20世紀になると5年おきの時代もあり、毎年のように新しいものが出てくるという状況となりました。
それは現在でも続いているようです。