人間には知恵があり、それで行動していると考えられるかもしれませんが、実際には本能に左右されていることが多いのでしょう。
だからこそ動物の行動を調べる動物行動学の成果を見ていくと人間の行動が分かりやすいということがあるようです。
本書は動物行動学が専門の今福さんがその成果を解説し人間との関りを考えさせるようなものになっています。
取り扱う対象は広く、利己性利他性という話から、数の認識、錯覚、雌雄の戦略、左右の対称性、生物多様性、食料問題まで。
もとは日医文化総研という非営利活動法人の発行する「知遊」という冊子に連載していた記事ですが、その冊子はほとんど発行数も少ないということでまとめて一冊にしたということです。
多くの生物は左右相称といって縦の線を中心に左右対称になっていますが、厳密にはそうではない部分も多くあります。
ただし単細胞生物やイソギンチャク・ウニなどは放射状の形の放射相称という形状です。
そうなったのはそれなりの理由があったはずです。
ただし体内の臓器などは非対称の部分もかなりあります。
またほとんどのヘビでは左の肺がほとんどなくなっていますし、多くの鳥類では卵巣や卵管は左側だけが発達しています。
ヘビは狭いところに入り込む必要がありそれで体を細くしなければならず、鳥は体を軽くして飛びやすくするためだったろうとは言えます。
ただし行動上は左右の動きが違うということは多くの生物で観察されます。
人間でいえば右利き、左利きということですが、コオロギでも右の羽でしか鳴けません。
利き手ではサルの状況は詳しく調べられており、ニホンザルではほとんどが左利きです。
原始的なサル類ではほとんど左利きのようです。
しかし類人猿ではばらつきがあります。
樹上性のテナガザルやオランウータンでは左利き、地上性のゴリラやチンパンジーでは右利きの傾向が見られます。
これは木の枝を掴むこと、そして子供を抱く手が影響しているのではということです。
人間もやはり動物の一種なのだということが再確認できます。