食料自給率が低いということは言われますが、それ以上に日本の農業の状況というものは厳しいもののようです。
本書ではそれを3つの方向から見ていきます。
小泉進次郎が農政に関してどのような動きを見せているのかということはあまり知識がありませんでしたが、2015年に自民党の農林部会長に就任、農協とその上部団体である全農や全国農協中央会(全中)に大幅な改革を行うことを示し妥協点は探るもののかなりの成果を出したそうです。
野菜工場は多くの企業が進出しましたが多くのところで失敗が相次ぎ撤退しています。
そのほとんどがレタスなどの葉菜類を対象としていますが、その理由も明らかです。
葉菜はわずかな根以外はすべて出荷することができるのですが、果菜類や根菜類は出荷できる部分はごく一部、光熱費をかけて育てた植物体のほとんどを捨てなければなりません。
ただし、世情の変化で絶対無理という状況は変わっています。
多少高くても衛生第一という風潮があり、それが福島原発事故で強まりました。
そのため外気に触れることなく、土壌にも汚染されなくて済む野菜工場産の野菜が高くても歓迎される場合が出てきました。
農業への企業参入も失敗例がほとんどです。
その奥には、「不効率な農業経営」はそれを得意とする企業が取り組めば解決できるという上から目線の勘違いがあるようです。
それ以上に農業の持つ不安定性とそれに対処する農民の知恵というものの重要性があるということを思い知らされて撤退することになります。
それでもいくつかの事例では軌道に乗りかけているものもあり、そこに事態の打開の道がありそうです。
それにしても、現在の日本農業に至った経緯というものは奥深いものがありそうです。
敗戦後にアメリカの強制により行った農地改革でそれまでの小作人が安価で土地を手に入れて自作農となりました。
しかしそれらの所有農地はわずかなもので零細経営しかできないものでした。
それが国の経済成長にさらされてどうなったかというと、「兼業農家化」という道を選んでしまいました。
そのために農家の主要な収入源は給与収入となり、農業は副次的なものとなりました。
そのために土地集約化で大規模経営の専業農家が出現する道を閉ざしました。
一方では企業でも農業収入を持っている兼業農家は安価な給料でも文句を言わず働いてくれる都合の良い存在であったようです。
しかし、そういった兼業農家もその状況を息子や孫にさせることはできず、今どんどんと廃業に向かっていきます。
それが本当の現在の日本の農業の危機であるということです。
農業への企業参入は難しいといっても、農家が集まって農業法人化するという事例は増えています。
どうやらそういった方向に日本農業は進んでいくのでしょう。