この本の副題にもなっているように「語学書書評集」というものだそうです。
出版された書籍には多くの書評というものが書かれており、それは多くの分野の書籍に及んでいるのですが、「語学書」の書評というものは見たことがないとか。
そこで、語学書などを多数出版している白水社の編集者にそれを話したところ、それならばということで同社の広報誌に連載することとなったそうです。
著者の黒田さんはロシア語などスラブ系の言語の研究者で、そちらの言語では語学書と言われるその言語の学習者に向けた入門書などを書いているそうです。
しかしそういった言語だけでなく世界各地の言語に興味があり、日本で発行されているそういった言語の語学書というものを集め、まったく分からなくてもそれを読むのが趣味だという、語学が仕事であり趣味でもあるという方です。
そこで、そういった興味のまま読んできた語学書の書評を書いてみたということです。
語学書というものは、全くの初心者向けのものもあり、中級者上級者向けのものもあるのですが、そこで使われている手法は結構他の言語にも適用可能なものが多いようです。
黒田さんもロシア語の語学書は書いているとのことで、読者に分かりやすく学習効果が上がるような語学書の書き方というものにも興味があり、参考にできるものはしてしまおうという下心もあったようです。
しかし対象となる語学書は世界各地の言語のもので、ヨーロッパ系のものでも英語ドイツ語フランス語といったものから、北欧系、スラブ系、南欧系など各地の言葉のものが取り上げられています。
アジアの言語でも中国、韓国、タイ、インドネシア、インド、カンボジア、ヘブライ、アラブとなんでもあり。
文字自体が馴染みのないものも多く、そういった言語の場合の日本人学習者に対する導入方法というのも難しいようです。
今の語学書ではCD、DVDが添付されているものが多く、その中には「カラオケ式テクスト」というものもあるようです。
これは「DVDでドイツ語入門」という本で、画面には声を出すテンポに合わせて文字部分の色が変わっていく、つまりカラオケで歌う所の文字の色が変わっていく方式を取り入れたものだそうです。
ただし、最近ではダウンロードで音源などを取得させる方が主流となり、CD添付は減っているそうです。
語学書の古典に属するものかもしれませんが、「林田フランス語教室」という本がありました。
1978年から2年間、NHKラジオで放送されたフランス語講座の教材を基にできた本だそうです。
テキストはバラバラではなく、フランスの地方都市に住むマリアンヌとロベールが遭遇する不思議な事件に沿って展開されるのですが、その最初の場面でカフェを訪れた女性と従業員の会話が「コーヒーとクロワッサンを二つ下さい」だったそうです。
このテキストに魅せられてフランス語を習いフランスに向かった人も多かったのですが、彼らは皆フランスのカフェで「コーヒーとクロワッサン二つ」と言ってしまいがちでした。
しかしフランスのカフェでのクロワッサン二つはちょっと多すぎるようです。
グルジア語(現在はジョージアと呼ぶのでしょうが)の語学書「ニューエクスプレスグルジア語」というのがあるのですが、言語の類型で有名なのがグルジア語における「能格」の存在だそうです。
これは他の言語には見られないもので、それを理解するのも困難です。
「自動詞の主語と他動詞の目的語が中立的な同じ格形態で表されるのに対して、他動詞文の主語は能格と呼ばれる特殊な形となり」というのがその説明ですが、さすがの黒田さんでもよく分からない。
それをこの本では巧みな叙述で分かりやすく教えてくれるそうです。
語学は英語は何年やってもダメ、大学の第二外国語でフランス語を取って2年やったもののほとんどものにならなかった私としては、このように全く知らない言葉でも語学書を読めばある程度分かったつもりになれるというのは信じられないほどです。
しかし語学の天才という人がいるそうですので、そういったこともあり得るのでしょう。